生涯学習講演会

生涯学習講演会レポート

多元的共生社会における生涯学習を考えるシリーズ第30回

ユニークネス・ワーク
はたらき方のデザイン、生き方のデザイン

講演者:鵜川 洋明(ミラクカンパニー株式会社 代表取締役社長)
石川 直宏(FC東京クラブコミュニケーター・元サッカー日本代表) 日 時:2023年1月14日(土)10:00~12:30
会 場:オンライン開催(ZOOM)

レポートPDFはこちら

自己紹介からはじまるフリートーク

鵜川(以下、敬称略):ふたりの自己紹介というと固いですが、そんなところからはじめていきたいと思います。改めて、私の名前は鵜川洋明といいます。ぜひ“うーさん”と呼んでください。やっていることが多岐にわたっていて一言で言うのが難しいのですが、ひとつとして「場づくり」をしています。例えば、誰かと関わり合いながら、自分を発見するような場づくりをしたり、場づくりをしたい人に向けた講座をやったり。オープンに個人向けにやることもあれば、クローズドで企業向けにやることもありますし、NPOなんかとコラボすることも。場づくり以外には、「どう働き、どう生きるか」を一対一で相談にのる個人セッションも仕事としています。あとはカンボジアで図書館をつくったりとか、児童養護施設で自立支援のサポートをしたりとか。ビジョナリーワークガレージというワークショップができるような場所も運営したりもしています。では、なおさん(石川さん)、どうぞ。

石川(以下、敬称略):石川直宏と申します。高校卒業から36歳までプロサッカー選手として、横浜F・マリノス、FC東京でプレーし、引退した5年前からはFC東京のクラブコミュニケーターをしています。クラブの現場には選手、監督、コーチがいますが、クラブ全体で考えるとビジネススタッフ、育成普及コーチ陣、地域担当、施設、行政、スポンサーといったステークホルダーがいるので、そういった方々も含めてコミュニケーションをとりながらクラブ全体としての一体感をつくっていく、そんな仕事です。働き方としては、月の半分がFC東京、もう半分は個人での仕事に充てています。その一環として行っているのが、長野県・飯綱での農業です。農業みたいなまったく知らない世界にも身を置きながら、クラブの仕事に還元したり、またその逆もしたりしています。例えば、FC東京のホームタウンである三鷹の農家さんとの場をつくりながら、関係性の質を高めるような活動もしています。

鵜川:私がなおさんと出会ったのは2016年くらい。当時はまだ現役のサッカー選手で、私が関わったアスリートとビジネスパーソンが共に学ぶ場に来てくれたんです。そのころから、なおさんってすごく面白い考え方をする、ビジョナリーな人だなという印象があって。今日はそんななおさんと、ユニークネス・ワークというキーワードはありつつも、特にこの話をという事前準備はなしのフリートークをしていきたいと思います。

鵜川洋明
石川直宏

自分にとって望ましくないことが、
クリエイティブの源泉になる

鵜川:なおさんが自分のキャリアを振り返った時に、こんな転機があったとか、考え方が変わった契機ってありますか?

石川:僕は5歳でサッカーを始めて、中学・高校と横浜・Fマリノスのクラブチームにいて、プロになって、日本代表になって、オリンピックも行って、18年プロで活躍しました。という僕のキャリアを文字で見ると「すごいですね」となるんですが、ただ、結果的にそうなっただけであって。そのときそのときは、もうどう乗り越えようかという苦難の連続でした。サッカー人生トータルで考えると、苦しいのが7、8割、喜びや価値を感じられたのは残りの2、3割。僕の中では、このあとどんな景色が見えるのかというところをモチベーションに、うまくいかないときを乗り越えてきたところがあります。

鵜川:ケガや手術も多かったんですよね。

石川:プロ選手時代に手術は7回しました(笑)。うーさんと出会ったのも左膝の十字靱帯の手術からちょうど1年がたったころで。リハビリに思った以上に時間がかかって、34歳のベテランがピッチの上で価値を出せずに、「じゃあ、できないままでいいのか」ともがいていた時期でした。

鵜川:絶頂なときに、結構ケガみたいなネガティブことが起きるんですよね。なおさんのサッカーみたいに、自分の得意や持ち味をいかんなく発揮して仕事ができたり、生きられたりするとハッピーだよねってよく言いますけれど、でも実は、それが続く時間は長くないというか。

石川:そう、一瞬です。

鵜川:人生は続くのに、自分がサイコーだと思っているものの寿命はその前にくる。起きてほしいことが起きないとか、起きてほしくないことが起きるとかっていうことが、人生でよくある。そのときに、それが起きるってことは自分にとってどういう意味をもっているのかと捉えられるメンタルがあるっていうのは、大きな違いだと思っていて。

石川:僕はよく「感度」っていいますが、そういう不安で、怖くて、ある意味での非日常になったときこそ、感度が少し鋭敏になるんです。感度が高くなったときこそ、自分がどんな考えをもっているのか、何を望んでいるのかと矢印を自分の内側に向ける。それから、今後どうしていきたいのかと、だんだん捉え方を変換する作業に入る。それが成長だと思うんですよね。

鵜川:感度を高めていくというか、その状況のなかで何かを感じようとするってね、すごく大事だなと思います。なおさんは、今、感度を磨くためにやっていることはあります?

石川:最近の言葉でいうと「越境」ですね。慣れない場にチャレンジして、非日常に身を置きにいきます。知らない人、知らないコミュニティのなかで「ああ、こんな世界があるんだな」と知って、そこからつながる別の世界にまた身を置けるようになっていく。農業もそうです。現役選手のときには、まさか自分が農業やっているとは思ってないですよ(笑)。

鵜川:ですよね(笑)。創造の“創”って、キズっていう意味なんですって。絆創膏の創はキズ。創がキズなら、ネガティブなこと、自分にとって望ましくないことがクリエイティブの源泉になるんじゃないかという捉え方をしていて。そう考えると、そもそもネガティブとかポジティブっていう線引きすらもあまり意味をなさないというか。起きた出来事に対して感情が揺さぶられるってことが起きるだけで、それが怒りや悲しみ、虚無感、喜びでも、どれが良い悪いではなくて。例えば、怒りだったとしたら、その怒りの源には何があるんだろうと、起きた出来事ではなくて感情を起こしている自分の内側に目を向けてみる。そうすると、自分の好きや大事なものにたどり着くんです。そんなことを繰り返していくと、いろんな出来事の一つひとつは脈絡のないものだったとしても、結びついていく。そんな感覚が大事だなと思っていて……伝わります?

石川:伝わります。自分が経験してきたことを重ね合わせながら聞いていて。ネガティブなことが起きたときに、環境や人のせいにするんじゃなくて、自分の心の矢印を自分に向けろとは、僕自身もよく言っています。自分が望まないところに身を置くことになっちゃったときの刺激こそが自分にとって大事だなあと、度重なるケガや手術なんかを通じて気づいて、そういうことを何度も積み重ねて。けがも含めて、そのタイミングで必然だった刺激だと思えれば、もはやネガティブじゃないよねって。ネガティブ、ポジティブって分けるのではなくて、自分自身の内側に目を向けていくんです。その繰り返しのなかで、うーさんに出会ったのも必然で、そうした出会いでまた変わっていく。

connecting the dots~点と点をつなぐ

鵜川:僕もなおさんも自分の琴線に触れる、面白いとか、逆にざわつくとかいうことをきっかけに、いろいろやっていくじゃないですか。なおさんなら、サッカー、農業、ゴミ拾い、場づくり。僕も何やっているか分からない人ってよく言われるんですけれど、なおさんが、そうなった契機はあります?

石川:サッカー選手としての僕は、右サイドと言われる場所が主戦場で、ガンガン突破するのが僕の武器だったんです。専門性を持ってずっと特化してやってきたので、逆に今は、いろいろやりたい。今までやってこなかったスタイルを、楽しみながら追い求めているというのも、ひとつのきっかけではありますね。自分はこういう人とかって、自分のことを決めつける必要はないし、いろんな可能性がある。それが引退したここ5年で感じてきたことです。

鵜川:僕、アップデートっていう言葉を使うんですけれど、自分自身がアップデートされていくことって起きるなあって感じていて。例えば、それまでやっていたこととは全然関係ないことを、人生の後半でやっていくとか。でも一見、一貫性がないように見えたとしても、実はなんらかの形で一貫性はある気がしていて。よくよく紐解いていくと大事にしていきたいものとか、見てみたい世界観みたいなものは一貫していて、環境とか出会う人によって、表現できることや場所がアップデートされていく。

「軸」って言葉があるじゃないですか、揺さぶられたときに立ち返る軸。この軸をWHATじゃなくて、WHYで捉えなおしていくほうが、自由度が高いなと思うんです。例えば、なおさんが軸をサッカーに求めたとしたら、引退後の道は、指導者や解説者に狭められちゃう。でもWHY(なぜ、やっているのか)を軸に求めれば、やっていることはバラバラでも、振り返ってみると何かつながりが見えてくる。スティーブ・ジョブズが「connecting the dots」、点と点をつなぐということを言っているんですね。今、自分が点としてやっていることが未来にどうつながるかは分からないけれど、未来から振り返った時には必ずつながっているから、信じて今やるんだという話です。実際、彼は退学した大学のカリグラフィの授業を面白いからって理由で受けていたんですが、それが結果的に美しいフォントを搭載したMacへとつながっていく。あとから振り返ってみなければ、どこでどうつながるかは分からないんです。

石川:面白いですね。そのときに強い点を打てるか。どんな点でもいいと思うんですけど、サッカーでも農業でも、自分の中で強い点を打てば打つほど、振り返った時にはっきり見える。はっきりしている方が「こんな点を打ってきたんだな」って振り返りやすくなるし、つなげていきやすくもなる。この先、自分もどうなるのか分からないですけれど、漠然とこうなるといい感じだよね、みたいなものは持ちながら、点を打っていきたいですね。誰とどこでつながるか、「ああ、このタイミングでこうつながるんだ!」っていう未来のワクワクは、今の自分にとってのモチベーションになります。

ユニークネス・ワークが内包する、3つの意味

鵜川:ユニークネス・ワークはなんぞやって話でもあるんですけれど、ユニークは独自性とか個性、“らしさ”。ユニークネス・ワークは、自らの“らしさ”に根差して創り出していく、職や仕事、働き方。どこかに属していようがいまいが、自分がやっていることに対して、どう“らしさ”を発揮できる状況をつくっていくのか。そうやって“らしさ”を積み上げていくと、いろんなことをやっているとか、あんまり聞かないけど共感できる仕事や領域を生み出しているとか、他にはないユニークネス・ワークにつながっていくと考えています。

実際にやっている人のユニークネス・ワークを紐解いていくと、3つの意味があるんだろうなと思っていて。ひとつは、「自分」にとっての意味。やっていると楽しいとかでもよくて、自分にとって価値があるよねという感覚。それから、「相手」の意味。半径5メートルの人たちの喜び、幸せになるというような、相手にとっての意味。それから、自分の範囲は小さいけれど、広がっていったら世の中にもなんかいいことが起きそうだよなっていう「世の中」にとっての意味。本人がどこまで意識しているかは別にして、自分にとって、相手にとって、世の中にとっての意味、この3つがあるなって感じるんです。

石川:そうですね、僕自身、周り、地域や社会、まさにそこですね。3つのつながりって言わせてもらいますけれど、僕と周り、地域や社会のつながりをつくるのが、僕の場づくりだと思っていて。まず自分がその場を楽しいと思えるかどうか。それが自分だけじゃない楽しみに変わっていくのが、また楽しい。自分なりの楽しさで場をつくっていくと、それが参加した相手の人たちの喜びとか、楽しさ、希望になって、また次やってみようというエネルギーに変わっていく。そうやって広がっていく場をつくれたら、世の中幸せになるよねっていう感覚でまさにやっているんです。手段はいっぱいあるんです。サッカー×〇〇っていうテーマでやってますけど。自ら楽しんで、楽しさをシェアして、新しい喜びに変えていく。もちろんうまくいかないこともありますけど、もうなにもかも濃いですよ。

なんだか心が動くことを、まずはやってみよう

鵜川:よく分からないんだけれど、なんかいい感じがするから、ちょっとやってみるっていうのがすごく大事だと思っているんですけど、企業の論理とかだとなかなか受け入れられないところもありますよね。

石川:これをやるとこうなって、集客につながって、マネタイズしてとかっていうところは、もう想像の範囲内でしかない。最初にそこを考えちゃうとそこまでにしかならない。でも、こうなっていくんじゃないかなってくらいではじめて、予期せぬことが起きても何か新しい形につなげていくと、想像を超える世界が見えてくる。これを繰り返せるかどうかだと思うんですよ。

鵜川:こうなるからこうだっていうような、人が認知できるものって実はほんのわずか。何か生れ出ようとしているものって、ロジックが組めないものなんですよね。だから、そこに何かがあるかもしれないと面白がれる感性、余裕が大事で。結果として、想像していたようなことが起きなかったときにも、この先面白いことにつながるんだっていうか、何が起きても面白がれるというか、僕もそれがすごいカギだなと思っているんです。

【グループでの感想共有タイム】
【質疑応答タイム】

鵜川:最後に、ユニークネス・ワークをしたいと考えるときには、「こんな問いかけをしたらいいんじゃない?」ということをお伝えしたいと思います。まず大事なのは、それが仕事になるとかならないとかは考えずに、なんだか心が動くことをまずはやってみること。心が動くっていうのは理屈ではなくて、なんでこうなるんだろうという疑問、そこに対して生まれるなんらかの感情、なんだか分からないけれど好きでしょうがないという偏愛みたいなことです。そのときに問いかけてみてほしいのが、「何をするのか?」ももちろん大事なんですが、「なぜそれをするのか?」のWHYです。いろんなことをやっていくなかで、だんだん見いだしていけるって感じでいいと思うんですけれど、なんとなくでも見えてきたならそれが自分の源泉になると思います。もうひとつ大事なのが、「どんなふうにそれをするのか?」。例えばなおさんなら、サッカーと農業を組み合わせるとか、そこにその人の世界観や“らしさ”が出てきます。

動き出した後には、「それをすると何が起こりえるのか?」というビジョン、「それに触れた人はどうなると思うか?」という価値を問いかけてみてほしいんです。相手にとってどういう意味があるのかっていうことが見えてくると、もっともっと活発に動けるようになります。こういう問いを繰り返しながら活動していくと、「つまり自分はこの人生をどう生きたいんだろう?」という人生の目的に向き合うタイミングが出てくるんじゃないかと思います。その答えがおぼろげにでも見てくると、自分がユニークネス・ワークをする意味っていうのが深くなっていきます。そこで終わりではなくて、何を、なぜ、どんなふうにするのかの問いに戻って、ぐるぐる繰り返しながらアップデートしていくことが大切です。ユニークネス・ワークを考えるときには、こうしたシンプルな問いを考えたり、ぜひ周りの人とも対話したりしてみてほしいなと思っています。今日はありがとうございました。