生涯学習講演会レポート
多元的共生社会における生涯学習を考えるシリーズ第29回
体験しながら学ぶ!
オンラインでも“つながる”ワークショップデザイン
講演者:新井 英夫(体奏家・ダンスアーティスト)
日 時:2022年9月3日(土)10:00~12:30
会 場:オンライン開催(ZOOM)
はじめに~オンラインでも! からだからつながる
「体奏家」として活動されている、ダンスアーティストの新井英夫さん。普段は、パートナーの板坂記代子さんとともに、主に体を使った非言語中心の身体表現&コミュニケーションのワークショップを、教育や福祉、社会包摂に関係する現場で実施されています。
今回は、コロナ禍に不登校の子供たちの支援活動・高齢者仲間づくり・障害福祉施設などの現場で行ってきた「オンラインでも! からだからつながる」ワークショップをアレンジして実施いただきました。
新井さんは、次のように話します。「体にハンディキャップがあるなど、何らかの理由で家から出づらい方にとっては、オンラインでつながることがひとつの可能性になると強く感じています。今日はそんなこともまるっと含めて、皆さんに体験していただけたらなと思います」。
ワーク:Zoomのカメラオン/オフで遊ぼう
(Zoomの「音声参加者を非表示」機能を使って)
・アンケート「朝ごはんを食べた人」
・勝ち抜きじゃんけんゲーム
Zoomの「音声参加者を非表示」機能を使うと、カメラをオンにしている人だけが画面上に表示されます。「朝ごはんを食べた人だけ、カメラをオンに」「勝ち抜きじゃんけんで、負けた人はカメラをオフに」とアナウンスすることで、いかにも対面時の「該当した人だけ、ちょっと前に出てきてください」というような雰囲気をつくることが可能に。子供たちにZoomの機能を理解してもらうために考案したワークだと新井さんは言いますが、そこにはデジタルな世界でのアナログな手触りがありました。
もちろん大人が参加者である今回も、Zoomの操作に不慣れな方はいます。そんなときも新井さんは、ゆったりと構えて待つ姿勢を大切にしていました。そして、Zoomに慣れている方に向かっては、「慣れてない方に合わせていきますからね。広い気持ちで待って差し上げてください。応援のリアクションを!」と声をかけます。“誰一人取り残さない”“リアクションを大切に”という場のあり方を、グラウンドルールなどの文字で示すことなく、声掛けひとつで浸透させていきました。
ワーク:色で遊んでみよう
(Zoomのカメラを使って)
・画面をパッと赤色に染めよう
・画面を森の色に染めよう
続いては、子供たちのやりとりのなかから生まれたというワークです。パソコンのカメラを指で押さえると、不思議なことに血液の赤が透けて映るのか、画面が赤く染まります。「ある学校のオンライン授業でレンズに触る子供がいたんです。先生にはレンズに触るなとおこられるところですが、僕が面白がったら、みんながやりだしたんですね。みなさんも、やってみてください」という新井さんの掛け声で、Zoomのギャラリービューが赤く染まりました。とはいっても、ひとつとして同じ赤はありません。次は森の色を映すというお題が与えられましたが、こちらもひとつとして同じ色はありません。新井さんは言います。「食べた物によるのか、体温なのか、画面に映る赤色にもかなりの違いがあるんですね。森の色もそうです。今日は約60人の方が参加してくださっていますが、ここに映っているのは60通りの森の解釈。まさに多様性の森となりました」。まさに、「正解はひとつじゃなくていい、多様な答えがあっていいんだよ」ということを、可視化しながら体感して共有できるワークです。
ワーク:鏡ごっこ
(Zoomの「ピン」機能を使ったペアワーク)
・鏡ごっこ
・見えないものを渡し合う
・皮膚感覚を渡し合う
60名の参加者がいたとしても、自分と特定の相手の画面を「ピン」で留めると、画面上には自分と相手のふたりだけが表示されます。その状態で行うのが、ひとりが「人間」役に、もうひとりが「鏡」役になっての鏡ごっこです。人間役がやることを、ただ鏡役が真似をするだけ。ただ、それだけの簡単なワークですが、Zoomの画面ならではの遊びができるところが面白いところです。「このワークはバリアフリーな可能性を含んでいる」と新井さんは言います。「重度障害を持った子供たちともやったことがあるんですね。大きく体が動かないお子さんでも、指先だけできつねさんをつくって、ちょんちょんとやれる。それをみんなで真似するとか、小さな動きをみんなで楽しむことができました。対面だと見逃してしまうような小さな動きが、Zoomだからこそ拾えるんです。カメラに近寄った小さな表現、逆にカメラから外れてみる、見えないことも表現にすることができる。オンラインだからこその可能性ですね」。
次も子供たちと盛り上がったというワーク、「見えないものを渡し合う」です。何かしらの丸いものや細長いもの、ふわふわしたものを手で表現して、それを画面越しの相手に渡します。渡された方は、受け取った形や質感の表現を変えて、また戻すということを繰り返します。
その大人向けの発展形として生まれたのが、ティッシュペーパーを使って「皮膚感覚を渡し合う」ワークです。ビデオ会議の特性として、相手に届けることができるのは音声と画像、聴覚と視覚のみ。「気分だけでもいいから、相手と触れ合っている感じとか、相手がどんな皮膚感覚を感じているのかを、コミュニケーションできないかなというところから生まれた」のが、この皮膚感覚を渡し合うワークです。オンラインなのに、同じ感覚を味わっているような、どこか不思議な世界がそこにはありました。
ワーク:なにやってるの?
(ブレイクアウトルームを使ったグループワーク)
・なにやってるの? 動作編
・なにやってるの? オノマトペ編
インプロゲームとして知られる「なにやってるの?」を、新井さんがオンライン向けにアレンジしたワークです。まず3~5人で一組になり、ブレイクアウトルームへと飛びます。順番を決めたあと、1人目が何かしらの動作をします。例えば、頭を洗うなどの動作です。それを2人目の人が「なにやってるの?」と聞くと、1人目の人は頭を洗っている動作をしながら「泳いでるの」などと全くちがうことを答えます。今度は2人目の人が今聞いたセリフの動作をして、3人目の人が「なにやってるの?」と声をかける…ということを繰り返していきます。さらに加えて、応用バージョンのオノマトペ編も行いました。「なにやってるの?」と聞くところは変わりませんが、その答えを「ぎょろぎょろしてるの」などといったオノマトペで表現します。
新井さんは「多分、ひとりでやってと言われたら、やらないですよね」と笑います。そしてこう続けました。「何人かメンバーがいて、周りが受け止めてくれて、お互いに役割が交代していくところがこのワークの良いところです。大人と子供、先生と生徒など、力関係が固定化されがちな相手と一緒に行うことで、ゆるやかに関係を結び直すこともできるんじゃないかと思います」。
ワーク:4分33秒
(かつてのZoomの音声設計思想を逆手にとって)
ワークショップでは、太鼓や笛、民族楽器などを効果的に使うのが新井さん流。ですが、2020年当時のZoomはもともとビデオ会議用のツールであったことからか、人間の声はクリアに聞こえる一方、それ以外の音は自動的にカットされてしまう仕様となっていました。「音楽は余計な音、裏の犬の鳴き声は必要のない音」とされている設計思想に、新井さんは不自由さを感じたと言います。そこで誕生したのが、Zoomでは届かないけれど、背景で鳴っている小さな音に思いをはせるワーク、「4分33秒」です。
「4分33秒」は、アメリカの作曲家ジョン・ケージによる「4分33秒、始まりから終わりまで無音」という、哲学的な問いを含んだ現代音楽のタイトルです。このワークではZoomのビデオをオフにして、4分33秒の間、ただ静かに自分の周りの音に耳をすませ、聞こえてきた音をA4用紙に線や記号でスケッチします。そして、スケッチをもとに、音の風景をめぐるグループ対話をしていきます。
ワーク:森のダンス
(Zoomのギャラリービューで)
最後のワークは「森のダンス」です。「ワークショップの場では全員が積極的に参加しなくていい、ときには輪の外からぼーっと眺めている人がいてもいい」という新井さんだからこその「森のダンス」。ギャラリービューにして、個人個人が好きなようにふるまいます。積極的に動いたり、ほおづえをついて眺めたり、ときには誰かの真似をしてみたりと、ふるまい方や居方は自由。ただ、皆がおなじ場所にいるんだなと意識することは大切にします。
数分間の森のダンスの後、新井さんは次のように締めくくりました。「多様性とか多文化共生とかって、いろんな方法論があると思うんです。僕は、自分ができることのひとつとして、体をつかった、言葉以外の直感的な表現やコミュニケーションをとりいれた場づくりをしています。お互いの表現を受け止めあえる、自由に表現しても大丈夫なんだと安心できる場。そして、多様性があるほうが豊かな場になるんだということを実感してもらいたい。今日はそのエッセンスを、体験していただきました。ありがとうございました。」
質疑応答(抜粋)
【Q】場をつくるときに、強制的な感じでなく、参加者のリアクションを引き出す方法はありますか?
【A】言葉や態度だけでなく、ちょっとした紙なんかの小道具を用意するとか、帽子や布などで遊んでみるというのもありかと思います。
【Q】不登校や外国籍、場面緘黙の子供たちの支援をしています。心の安全をはかりながら、一歩進めるための場づくりのヒントをください。
【A】体験談からお答えすると、過去には画面オフ・チャットのみであれば、参加できるというお子さんがいました。また、参加はできないけど、カメラセッティングなどを手伝いたいという子も。チャットで参加の度合いを広げたり、テクニカルスタッフとして巻き込んだりというのも、ひとつの方法になるかと思います。
- 参考:即興演劇の第一人者 絹川友梨さんによる「オンラインインプロ表現ワークショップ」の一部を参考にさせていただきました。
インプロ ワークショップ コミュニケーション - 参考資料:『オンラインのあたたかい場づくり自主研究ノート』(編著 NPOハンズオン埼玉、アイスブレイク研究会チーム)