受賞者インタビュー
第3回 2022年度 受賞者
【活動内容】
高齢者のための生涯学習施設「福山市老人大学」
— 年齢にとらわれない生き方をめざして —
【受賞者】
福山市老人大学 学長 飛田洋悟さん
第3回「生涯学習開発財団 松田妙子賞」は審査の結果、福山市老人大学の活動に決定し、授賞式が、2023年2月10日(金)、飛田洋悟学長を財団事務所に迎えて行われた。
福山老人大学は1973年、広島県福山市によって「高齢者が健やかで、生きがいをもつための生涯学習の場とするとともに、老人クラブをはじめ、地域のリーダーを育成し、明るいまちづくりをめざす」目的で設立された。本年4月に設立50年目を迎える、日本屈指の規模と歴史を誇るシニアの総合的な学び場である。
授賞式において、財団理事長・横川浩は、「松田妙子賞はまだ3回目ですが、財団では生涯学習発展のためにとても重要視している事業です。福山市老人大学は歴史はもちろんのこと、学生数(毎年2500人前後)、幅広い分野(現在34講座)、継続性、自主性、地域貢献度などにおいても見るべきものがあり、本賞にふさわしいと思います」と評価した。
大学と学生と地域の一体感が育んだ
日本随一の老人大学
——受賞したお気持ちはどうですか?
この度はありがとうございます。地元の中国新聞に受賞の記事を載せていただき、学生から「学長よかったなあ」といっしょに喜んでくれたり、OBの方からもお祝いの電話が来たりしています。私たち現役だけじゃなく、長く関わってこられた人たちも含めていただいた賞ですので、皆で喜んでいます。
受賞が決まって改めて財団や松田妙子さんのことを勉強しました。「Share Your Happiness!」や「学び続けることが個人も社会も豊かにする」という言葉は、私たちの大学においても本当にその通りなのです。自分の好きな教科を学び続けていた方が、いつか地域のリーダーになっているということがよくあります。今後の励みにもなる、本当にありがたい賞をいただきました。
——どのような教科があるのでしょうか?
1973年の開校時は、教養、書道、園芸、手芸の4教科でしたが、日本の伝統文化伝承の観点から茶道、華道、日本画、民謡などが、趣味の多様化によって写真、楽器、カラオケ、絵手紙などが、学生の要望から実用書道、太極拳、イキイキ体操などが増えました。また近年の社会的ニーズによって外国語、パソコン、スマホも登場し、34教科になっています。また、普通科を修了後も学びを継続したい人のために研究科ができ、2階建てになっています。最近はスマホがいちばん人気で、定員オーバーで入学は抽選になるほどです。スマホの研究科では、動画による番組配信や孫を見守るプログラムなど、高度なテクニックを駆使して活動をしています。
毎年続けて受講することもでき、30年くらい通っている90歳の方もいらっしゃいます。親子2代で老人大学の学生というお家も珍しくありません。
——活気を維持しながら50年続いている理由は何でしょう?
福山市の事業ではありますが、学校と学生会との距離が近いことが良い運営に繋がっているのだと思います。学生の自治がしっかりしていて、教科の教材費をいくらにするかなど自分たちで管理しているのです。毎日委員長会が開かれ、クラスに戻って報告されます。大学と学生が一緒に運営している感覚です。
学生の中には自主的に毎日のように掃除してくれる方もいて、私が「いつもありがとうございます」と声をかけると「いやいや、学長さん、私たちの老人大学なんですからお礼なんていらないですよ」と言われます。地域とのつながりも強いです。学生の登下校の足は車が多く、周辺道路は混雑して渋滞も起こります。近所迷惑だと思うのですが、私が就任してからも一度も苦情はなく、温かく見守ってくださっています。
逆に学生のボランティア活動として、高齢者施設に行って楽器やダンスを披露したり、地域の花壇のお世話をしたり、老人クラブ連合会の役員や民生委員を務めるなど、社会参加や貢献に積極的です。
——「老人大学」という名前はどうなのかと思うくらい、みなさん元気でアクティブですが、その理由は何でしょう?
まずは、学習そのものが楽しくて、発表の場も励みになることです。大学祭では展示をしたり、ステージで演じたりしますが、いずれもレベルは高く、華道などの腕はプロ並みでです。2つめは、学級の仲間同士のつながりです。懇親会や旅行なども企画されています。3つめは、役割がそれぞれにあって、自尊心を育むことができていることです。学級委員長、副委員長、会計係から駐車場当番まで、皆が必要とされているのです。地域の市民講座などに出向いて講師をされている人も少なくありません。
これだけ活発な老人大学は全国でも珍しいらしく、多くの方が視察にいらっしゃいます。毎年看護学校の学生が教育実習に来て、「平均75歳とは思えない」と驚いて帰られます。1996年には秋篠宮殿下・妃殿下のご訪問も受けました。最近ではミュージシャンの藤井風さんがいらして、リサイタルを開いてくださり、その後に紅白にも出られて皆驚きました。
——今後はどのような発展をお考えでしょうか?
例年は2600人前後の学生が在籍しているのですが、新型コロナ対策で一時休講にしたり、密にならないよう定員を減らしたりした関係で、1500名くらいまで減りました。学生だった方々も、家族が心配して外出を控え気味だったりします。高校野球の監督が「青春は密」とおっしゃいましたが、高齢者にとっても時間は貴重です。まずは、早くもとの活気を取り戻してほしいところです。
実は校舎移転の計画があります。現在は全国でも珍しい老人大学単独の施設なのですが、さすがに老朽化や耐震の問題があり、3年後の移転が決まっています。まちづくり拠点施設と一緒に新校舎に入るので、それらに取り組む若い人たちとの交流やコラボレーションによって、新たな展開もいろいろと起こるのではと期待しています。
今回の受賞は、間違いなくそうしたチャレンジへの励みになります。本当にありがとうございました。