1. 箏 Soh

ようこそ!和楽器の世界へ

一.箏 Soh 一.箏 Soh

最先端の音楽のなかで洋楽器のように音を出せる

箏(そう)は一般的に「こと」と呼ばれるが、琴とは別の楽器である。では、箏とはどういった楽器なのでしょうか。また、その魅力を和楽器ユニット「ZAN」メンバーの市川慎さんに教えていただきました。


爪の素材は、楽箏では竹、生田流や山田流は象牙(自然死した象などから合法的に得られたもの)が多い。
写真は生田流の角爪。

 中国には古くから箏(ソウ)と琴(キン)という2種類の楽器があり、奈良時代の頃に日本に伝わった。そのころは、弦を張ってある楽器を全て琴(こと)と呼んでいたが、平安中期頃から、琴(きん)、箏(そう)、琵琶(びわ)に分化していった。

 箏は、多本数の弦を張り、あらかじめ柱(じ)を立てて音程を決めた弦を弾いて演奏するが、琴は三味線のように指で弦を押さえることで音程を変える。一弦琴(いちげんきん)、須磨琴(すまこと)、二弦琴、大正琴(ごと)などがある。

 箏は、最初は雅楽の合奏の中で使われ、楽箏(がくそう)と呼んだ。全長約190㎝の桐材をくり抜いた中空の胴に、13本の絹弦を張る。楽箏は旋律は演奏せず、管楽器(竜笛(りゅうてき)、篳篥(ひちりき)、笙(しょう))の旋律に沿って決まったリズムを刻む、打楽器的な役割に徹している。その後、近世の箏になると、主に地歌の世界で華麗な奏法を取り入れた楽器として発達する。

 江戸時代になると独奏や三味線などとの合奏も盛んになり、様々な流派が生まれた。流派は、大きく分けると上方で生まれた生田流と、江戸で生まれた山田流があった。生田流では角爪を用い、箏に対して45度に構えて演奏するのが特徴。一方、山田流では丸爪を用いるため箏に正対する。いずれも、右手の親指、人差し指、中指の3本にはめて演奏する。 

 新しい調弦や曲目をつくり、箏曲を盛んにした人物として八橋検校の名が知られている。

胴の材質は桐で中は空洞。弦は絹糸をより合わせたものだったが、切れやすいため最近は合成繊維が多い。

箏は柱の位置によって、どのような音階にもアレンジすることができる楽器だ。

奏者に聴いたその魅力

市川 慎 Ichikawa Shin

市川 慎:「AUN Jクラシックオーケストラ」メンバー。第7回長谷検校記念全国邦楽コンクール最優秀賞、文部科学大臣奨励賞受賞。2004年和楽器ユニット「ZAN」のメンバーとしてエイベックスよりメジャーデビュー。浜崎あゆみ、EXILE、石井竜也などのCD、ライブ参加。平成15年度秋田県芸術選奨受賞。第59回全国植樹祭において御前演奏。「箏衛門」「螺鈿隊」「ZAN」「WASABI」メンバー。清絃会副会長。

 私の家は代々、生田流の家元だったのですが、子供の頃は女性が弾く楽器と感じていて、箏には興味が湧きませんでした。高校の時、ロックバンドでエレキギターを担当していて、ギターでやっているカッコよさを、箏でもやれるのではと、ふと気付いたのです。それを機に本気で取り組んでみようと思い、沢井忠夫先生の内弟子として4年間修行し、その後自分の活動を始めました。

――知ってほしい箏の魅力は?

 和音を出せるのが大きな特徴だと思います。お正月のBGMなど古典的な音色をイメージする方が多いと思いますが、現代の洋楽器ができることは、だいたいできる楽器なのです。その辺は、あまり認知されてないと感じています。

 箏(13弦)は比較的高い音域が出せる楽器で、低い音域が出る17絃箏と組み合わせると、面白い演奏ができます。AUN Jでやる場合は、管楽器がメロディを演奏し、その間を箏が紡いで、さらに下のベース的なラインとして17弦箏ということが多いです。

 着物を着て正座で演奏することの多い古典音楽も、それはそれで文化として残さないといけないと思います。ただ、現代から見ると古典なのですが、当時は最先端の音楽だったはずです。古典音楽の中の箏だけではなく、時代と共にできてきた新しい音楽の中でも箏を活かしていかないと、演奏する人も減っていってしまうと思います。

 今は自分たちの音楽を作って、多くの方々の共感を得ることができたらと感じています。ロックのような曲や、洋楽器との共演など、いろいろな演奏にチャレンジしています。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第一回は「筝」の音色を、2種類の演奏でお楽しみください。

① 伝統的演奏

② 現代的演奏

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

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2. 中棹三味線 Chuzao-Shamisen

ようこそ!和楽器の世界へ

二.中棹三味線 Chuzao-Shamisen 二.中棹三味線 Chuzao-Shamisen

古典から現代楽曲までこなす、しなやかな音色

三味線は日本の代表的な弦楽器で、棹の太さによって、太棹、中棹、細棹と分けられる。小学生の頃から三味線を習っていた奏者 尾上秀樹さんが、その可能性を紹介します。


弦、撥、駒(弦を支え皮に音を伝えるもの)などの微細な違いで音色が変わる。

 三味線につながる楽器は世界中に見られる。古代エジプトのネフェルに始まり、イランのセタール、中国の三絃などだ。日本には、琉球の三線(さんしん)(蛇皮線=じゃびせん)として、16世紀後半に現在の大阪・堺に伝わった。

 当時の日本は、階級ごとにやってよい音曲や楽器が定められ、雅楽は宮廷・社寺の、能は武家の、祭音曲は庶民のものとされていた。琉球から渡来した三線は一般庶民に開放され、三味線(三つの味わいのある線)の名で日本中に広まった。

 撥(ばち)で演奏するなど改良を加えたのは琵琶法師たち。江戸時代には、歌舞伎、人形芝居、他の楽器との合奏、民謡の伴奏、阿波踊りのような祭り音曲、浪曲などの大衆芸能と、急速に日本を代表する楽器となっていった。

 中棹三味線は三味線の基本形とされる。初期に生まれた、短い歌詞に節を付けてつなげる「組歌」、さらに多くの詞に節を付けた「地歌」(その地の歌という意味)、その後に発展した清元、常磐津などの浄瑠璃にも用いられる。しっとりとした落ち着きのある音色が特色で、箏、胡弓などとの合奏にも適している。

 その後、地歌の歌詞は長くなり、歌舞伎の「長唄」として花開く。長唄では中棹よりも棹が幾分細い細棹三味線が使われる。細棹は華やかな演奏が特徴。他方、大阪で人気を誇った人形浄瑠璃の義太夫節や津軽民謡では、音に力のある太棹三味線が用いられてきた。

奏者に聴いたその魅力

尾上秀樹 Onoue Hideki

尾上秀樹:6歳の6月6日より、母・藤本流総大師範の藤本弥尾地に師事。三味線修行の傍らロックバンドのベース奏者として活動するも、2001年から中棹三味線に回帰。尺八の石垣秀基と「HIDE× HIDE」を結成し、2010年、ロシアのサンクトペテルブルグで行われた「第 1回テレムクロスオーバー国際音楽コンクール」にて1位と特別賞を受賞。 2009年から「AUN Jクラシック・オーケストラ」メンバー。

 母親が東京で三味線教室をやっていて、小学校6年間は言われるままに習っていました。しかし「三味線なんかやってんの」と馬鹿にされる時も多く、中学時代は三味線から離れました。

 エレキベースと出会いバンドを始めたのですが、逆に心に余裕ができ、高校生になって母親の三味線教室を手伝おうという気持ちが生まれたのです。再び三味線を弾き始めると、エレキベースよりも三味線が好きなことに気づき、バンド解散も重なり、三味線に回帰しました。

 でも、三味線教室で習った古典的な楽曲だけではなく、自分で曲を作って発信していこうと決心したのです。

――三味線の魅力は?

 「無駄のない美しさ」という言葉がありますが、日本の古典的な楽曲には、そういった部分が多く見られる気がします。激しい曲でも、間とか侘び寂びに通じる、音と音の間の余韻や静寂があるからです。古典的な楽曲の聴き所です。 一方、現代的な演奏においては、海外で生まれた音楽でも三味線や他の和楽器で演奏すると、かっこいいと感じる相性の良い組み合わせがあります。AUN Jのレパートリーで言えば、「トルコ行進曲」や「カノン」などです。

 三味線がピアノのメロディを弾くと、より寂しくなったり、尺八でバイオリンのメロディを吹くと、より哀愁が漂ったりする時があります。和と洋が融合するだけでなく、和が洋を凌駕する瞬間。それがまた面白く、魅力的だと感じます。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第二回は「中棹三味線」の音色を、3種類の演奏でお楽しみください

① 伝統的演奏

② 現代的演奏

③ トルコ行進曲

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

AUNの最新情報、ライブのご案内などは公式サイトをご覧ください。
http://www.aunj.jp

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3. 笛(篠笛/能管) Fue(Shinobue/Nohkan)

ようこそ!和楽器の世界へ

三.笛(篠笛/能管)Fue (Shinobue/Nohkan) 三.笛(篠笛/能管)Fue (Shinobue/Nohkan)

日本人に親しまれている素朴な楽器

笛は、竹に歌口と指穴が空いているだけの簡素な構造をしているが、実に多くの種類がある。笛の個性に魅入られた横笛奏者、山田路子さんにナビゲートしていただきました。


能管の高音の響きは、神々しさや恐怖感のほか、天空を翔けるような疾走感にゾクゾクさせられる。

篠笛のピーヒャララの音は、日本人に深く親しまれている。里神楽、獅子舞、民謡、歌舞伎の下座(げざ)音楽まで広く用いられ、その響きは、のどかな田舎の風景から、芝居の自決場面の悲壮感まで、様々な効果音を生み出す。

篠笛は篠竹で作られ、竹笛とも呼ばれる。茅葺き古民家の屋根裏で100年以上燻された煤竹(すすたけ)が最良とされ、丈夫で狂いが少ない上に、澄んだ音色が遠くまで響くという。

篠笛の音高は「本」と呼ばれ、半音刻みで一本から十二本まであり、基本のハ長調の音階のものは八本調子だ。歌舞伎囃子などでは、三味線に合わせて多くの調子の笛が必要で、「○本半」という微妙な高さのものもある。

低音の笛は長く、高音のものほど短くなる。指穴の数も様々で、多くは7穴だが、6穴や4穴の物など、地域によって異なる。三味線や洋楽に合わせやすいのは7穴とされる。

能管も竹製で7穴だが、管の内側に漆を塗り、息を吹き込む唄口と指穴の間に管の内側を細くした喉(のど)というものが入っているのが特徴。主に能楽に用いられるが、「神降ろしの音」とも呼ばれる甲高い神秘的な音が印象的で、歌舞伎などでも効果音として使われる。

歌舞伎の幕の下りる場面で、「空笛」と呼ばれる効果音が入る時がある。吹き方は決められておらず、奏者の感性に任される。篠笛奏者の腕の見せ所だ。

奏者に聴いたその魅力

山田路子 Yamada Michiko

山田路子:千葉県習志野市出身。能楽師一噌(いっそう)流笛方一噌幸弘氏に師事。横笛(篠笛・能管)を用い、古典の技術を活かしながらオリジナルの世界を追求している。2012年にはオリジナルアルバム「mikoto ~ミコト~」、2013年に「いろはに笛と」をリリース。2012年から自主公演「山田路子の武者修行」ライブを開催。「AUN Jクラシック・オーケストラ」のほか、「竹弦囃子」「打花打火」にも参加している。

 盆踊りの太鼓叩きに惹かれ高校で和太鼓部に入部しましたが、篠笛と出会い、こっちの方が面白くなって転向しました。そのころ一噌先生に出会い、先生は古典だけでなくオリジナル曲をやったり、クラシックも学んだりと、垣根のない活動をしていたので、かなり影響を受け、ますます篠笛や能管の面白さにはまっていきました。

笛の魅力は?

 篠笛は祭りのお囃子にも使われますが、地域で全く違う音階や作り方がされていて、独特な世界があって面白いです。

 能管は能に使われる笛ですが、ドレミ音階ではなく系統だってはいません。「ヒシギ」と呼ばれる最高音域の高い音は、鋭く鳴って、和楽器では数少ない、天に突き抜けるようなインパクトのある音が魅力的です。

 笛は職人さんの所に行って、できているものの中から選ぶ時もあれば、こういう笛が欲しいとオーダーすることもあります。AUN Jで使っているのは、篠笛の中でも「唄もの」と言われる、ドレミの音階に合っている種類のものです。

 祭り囃子で使われる篠笛は、その地域ごとに作る職人さんの特色があって、音階もドレミではありません。このお囃子にはこの職人さんの笛と決まっています。

 同じ横笛でもフルートとは違って、竹に穴が空いているだけの素朴な楽器なので、ムラ息など素朴ゆえの味わいもあります。笛それぞれの個性も感じながら演奏を聴かれると、面白いのではないでしょうか。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第三回は「笛」の5種類の音色(お囃子、八本調子、六本調子、三本調子、能管)をお楽しみください。

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

AUNの最新情報、ライブのご案内などは公式サイトをご覧ください。
http://www.aunj.jp

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ようこそ!和楽器の世界へ

ようこそ! 和楽器の世界へ

和楽器の魅力を、その歴史、演奏家の解説、実際の音色の3本立てでお届けする2018年度からの新企画。監修は和楽器ユニット「AUN」の井上良平・公平さんです。

和太鼓

和太鼓  Wadaiko

熱狂を生むリズム 世界へ羽ばたく

神事、祭礼から芸能、ゲームにまで。多種多様な場での活躍は伝統楽器随一と言える和太鼓。世界中で公演を重ねる井上良平さんが、歴史ある和太鼓の魅力と和楽器演奏への想いを語ります。 【2020年10月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

胡弓

胡弓 Kokyu

新しい魅力を磨き未来につなぐ

「おわら風の盆」の調べで有名な胡弓だが、専門の演奏家や楽曲はとても少ない。オリジナルな取り組みで胡弓の普及に努めている木場大輔さんの活躍をご紹介します。 【2020年6月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

尺八

尺八 Shakuhachi

音色も奏法もバリエーション豊か

尺八といえば時代劇で虚無僧が吹くシーンを思い浮かべてしまうが、現在はジャズや即興音楽にまで用いられ、活躍の場は限りない。石垣征山さんにその注目点を伺いました。 【2020年4月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

十七絃箏

十七絃箏 Jushichigen-Soh

宮城道雄が考案、低音域を出せる箏

長さも幅も厚みもある十七絃箏。大正時代に、合奏曲の低音部用として生み出された。その音楽性について、中学生の頃から箏を学んできた山野安珠美さんに教えていただきました。 【2019年12月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

琵琶

チャッパ Chappa

自由な表現で曲に変化を生み出す

2枚一組で両手に持ち、打ち合わせて演奏する、小さなシンバルのようなチャッパ。独自の奏法を開拓してきたHIDEさんが、その面白さを語ってくれました。 【2019年9月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

琵琶

津軽三味線 Tsugarushamisen

力強さと繊細さで多くのファン

「叩き」と呼ばれる奏法、特徴的な「さわり」の音、早弾き。和楽器の中でも異質な発達をとげた津軽三味線を紹介してくださるのは、「AUN」の井上公平さんです。 【2019年5月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

琵琶

琵琶 Biwa

語って演奏、ミュージカルのような魅力

正倉院にも保存されている琵琶は現在、語り物や謡曲に加え、オーケストラでも主要楽器として演奏されることがある。琵琶独特の面白さを藤高理恵子さんに伺いました。 【2019年2月号】

詳しくはこちら

笛(篠笛/能管)

笛(篠笛/能管) Fue(Shinobue/Nohkan)

日本人に親しまれている素朴な楽器

笛は、竹に歌口と指穴が空いているだけの簡素な構造をしているが、実に多くの種類がある。笛の個性に魅入られた横笛奏者、山田路子さんにナビゲートしていただきました。【2018年12月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

中棹三味線

中棹三味線 Chuzao-Shamisen

古典から現代楽曲までこなす、しなやかな音色

三味線は日本の代表的な弦楽器で、棹の太さによって、太棹、中棹、細棹と分けられる。小学生の頃から三味線を習っていた奏者 尾上秀樹さんが、その可能性を紹介します。【2018年9月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

箏

箏 Soh

最先端の音楽のなかで洋楽器のように音を出せる

箏(そう)は一般的に「こと」と呼ばれるが、琴とは別の楽器である。では、箏とはどういった楽器なのでしょうか。また、その魅力を和楽器ユニット「ZAN」メンバーの市川慎さんに教えていただきました。【2018年6月号】

詳しくはこちら

Youtubeで音色を紹介しています。

10. 和太鼓  Wadaiko

ようこそ!和楽器の世界へ

十.和太鼓 Wadaiko 十.和太鼓 Wadaiko

熱狂を生むリズム 世界へ羽ばたく

神事、祭礼から芸能、ゲームにまで。多種多様な場での活躍は伝統楽器随一と言える和太鼓。世界中で公演を重ねる井上良平さんが、歴史ある和太鼓の魅力と和楽器演奏への想いを語ります。

日本でも太鼓の歴史は古く、縄文期の遺跡からその原型と思われるものが出土している。楽器としての太鼓は、古墳時代に大陸から伝わったとされるが、非日常的な大音量は、狩りや戦の合図、宗教行事、祭礼などに広く用いられた。やがて歌舞伎など芸能の発達に伴い、楽器としても一般に広まっていった。

和太鼓の中で最も目にするのは、木をくり抜いた胴の両側に牛革を張り、多数の鋲で止めた長胴(ながどう)太鼓(宮太鼓)。全国の和太鼓保存会やサークルは約1万5000もあり、広く老若男女に愛好されている。地域イベントなどで演奏する機会も多くポピュラーだ。

能や歌舞伎で活躍するのが高音の締太鼓。一般的に打楽器は拍子を刻むのが役割だが、締太鼓は効果音として風や雪のシーンなどの表現もする。能では3大楽器(小鼓、大鼓、締太鼓)がそれぞれの掛け声を交差しながら、音楽的な表現をする独特な世界だ。

近年、太鼓アンサンブルや和楽器の現代的演奏で多く使われるのが、写真のような桶胴太鼓。比較的軽く、踊りながら演奏することも多い。

1970年代から、佐渡の鬼太鼓座(おんでこざ)や分派した鼓童(こどう)などが、和太鼓をメインとしたステージを海外で行い、逆輸入の形で日本でも見直され、人気が高まった。

AUN Jのステージなど現代的演奏では、数種類の太鼓を組み合わせ、ドラムのように用いることもある。

奏者に聴いたその魅力

井上良平 Inoue Ryohei

井上兄弟の双子の兄。鬼太鼓座を経て、2000年、弟とともにAUNを結成。2006年、日本文化継承を伝える活動をニューヨークに広げ、マンハッタンでのライブ活動や、全米各地のフェスティバルへ参加。同年、外務省に招聘され、南米ガテマラ、コスタリカ、コロンビア・ツアーも展開。2010年から「桜プロジェクト」として全国100 校以上の小学校を訪問し、和楽器の演奏と桜の植樹を行っている。

私が高校3年のとき、音楽監督だった兄に誘われ雑用係として参加したのが鬼太鼓座です。ツアー直前にメンバーの欠員が出て、私と公平も1か月の猛練習をしてアメリカツアーに参加することになりました。そこで見たのは、カーネギーホールでロックコンサートのように観客を熱狂させる和太鼓の力でした。音楽に国境はないのです。

一方で、日本人ならではの感じ方もあります。私の母はピアノの先生で、家にはクラシックしか流れていませんでした。中学生になってからはロックばかり聴いていました。それでも、初めて和楽器演奏に触れたときに衝撃を受けました。ロックはやめて、雅楽をはじめ日本の音楽のテープをごっそり買い込んで、ひたすら聴きました。

和太鼓は、田畑を守る虫追い太鼓、雨乞い太鼓、 秋の収穫を祝う太鼓など、命に直結した音でした。 歓喜に満ちたリズムや、ときには悲しみの響きだったかもしれません。戦の陣太鼓だったこともあります。やがて芸能や祭囃子の楽器として発達し、長い時間を経て現代に伝わりました。初めて聞いてもどこか懐かしさを感じる。それが日本人にとっての和楽器の音色、魅力ではないでしょうか。

――和楽器演奏で伝えたいこと

AUN Jで「One Asia」と題した、カンボジア、ミャンマー、ラオス、シンガポール、そして東京オペラシティホールと、5年間にわたったアジアツアーで、アジア各地の30数名の民族楽器演奏者とコラボをし、「One Asia」というテーマを1か国ずつ丁寧に話をしながら、ぼくらの想いを伝えました。音楽を通して、各国が良い関係を築き、それが音楽に現れる奇跡を感じ取ることができました。

音楽に国境はない、けれどその音色に国籍はある。和楽器で世界の人を虜にしながら、日本人が自分の根に思いを馳せる機会も、提供し続けます。連載ご愛読ありがとうございました!

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第十回は「和太鼓」の演奏をお楽しみください。

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

AUNの最新情報、ライブのご案内などは公式サイトをご覧ください。
http://www.aunj.jp

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9. 胡弓 Kokyu

ようこそ!和楽器の世界へ

九.胡弓 Kokyu 九.胡弓 Kokyu

新しい魅力を磨き未来につなぐ

「おわら風の盆」の調べで有名な胡弓だが、専門の演奏家や楽曲はとても少ない。オリジナルな取り組みで胡弓の普及に努めている木場大輔さんの活躍をご紹介します。

富山県を代表する伝統行事、富山市八尾地区の「おわら風の盆」では、哀愁を帯びた胡弓の音色に合わせて踊ることで有名だ。

胡弓は日本の伝統楽器で唯一の擦弦楽器。形状は三味線に似て、胴に皮を張り、棹に絹糸をかける。全長70cmくらいで、胴体下に8cm程度突き出た中子先(なかごさき)と呼ばれる部分が特徴的だ。

材質は、棹が紅木、胴が花梨、糸巻が黒壇などであることが多い。弦は三弦が主流だが四弦のものもある。弓は民謡用で80cm前後、古典用では100〜120cmとかなり長い。束になった馬の毛がゆるく張られていて、右手で弓の毛の根元を引き締めながら演奏する。

左手の奏法は三味線と似ているが、胡弓は弓で擦って奏でるため、持続音や和音も出せる。擦る弦を変える際は、ヴァイオリンのように弓の角度を変えるのではなく、楽器本体を回しながら演奏するのが特徴。

胡弓の起源には諸説あるが、約400年前の江戸時代初期、すでに日本独自の楽器として存在した。その後、地歌、箏曲、義太夫節、民謡などにおいて、三味線奏者や箏奏者が胡弓を兼任する形で伝承されてきた。そのため、胡弓専門の演奏家や胡弓のための楽曲といった形の発展は限定的だったが、現代的演奏においてはそうしたことも積極的に取り組まれている。

懐かしい和の響き、ヴァイオリンのような精緻な洋楽の音色、そしてアジアンテイストの空気感が、同じ楽器から奏でられる。

奏者に聴いたその魅力

木場大輔 Kiba Daisuke

淡路島出身。甲陽音楽学院にて音楽理論とピアノを学ぶ。古典胡弓を原一男氏に師事。江戸時代より伝わる胡弓の伝統を尊重しつつも、四絃胡弓の開発、作曲など、胡弓の可能性を追求している。NHK Eテレ「にっぽんの芸能 花鳥風月堂」、NHK総合「バナナゼロミュージック」などに出演。吉田兄弟全国ツアーや、映画「駆込み女と駆出し男」サントラに参加など、幅広く活動を展開している。

中高生の頃はジャズ・ピアノをやっていて、大学で作曲表現を広げたいと思い、世界の民族音楽や伝統楽器を研究していました。弓で奏でる弦楽器を調べていく中で、日本にも胡弓という楽器があるのを知りました。いろんなルートから探してやっと巡り会い、楽器屋さんから先生を紹介してもらったのです。

胡弓専門の演奏家がいないのは、胡弓が主役になれるレパートリーが少ないからだと感じ、自分の作曲の経験が活かせると直感しました。古典と並行して、越中おわら節、文楽の阿古屋琴責(あこやことぜめ)の段、郷土芸能など、各地で伝わる胡弓の曲目や奏法を研究。それをベースに新たに作曲、古典曲への手付などをして、胡弓の魅力をさらに磨いて次世代に渡すという、活動の方向性を決めました。

ヴァイオリンと同様に弦に弓を当てて演奏するため、駒は中央が高い山形になっている。四弦胡弓は木場氏自身が開発したもの。

――未来の古典となり得る活動を

胡弓とピアノ、シンセサイザーによる「KODACHI」、胡弓と箏、二十五弦箏による「生糸」、胡弓、筑前琵琶、箏、尺八による「おとぎ」などのユニットをベースに活動しています。古典から最新のアプローチまでを一つのコンサートで聴いてもらうと、わかりやすく伝わると思い、2015年にコンサートシリーズ「胡弓いま⇄むかし〜伝えたい音、今奏でる〜」を立ち上げました。胡弓の伝統技法を踏まえた上で、未来の古典となり得る新感覚の主奏作品を作りながら、レパートリーを広げる取り組みをしています。

楽器も改良。低音弦を追加した四弦胡弓を開発し、弓の重心を変えて、伝統奏法から現代の複雑な技巧にまで対応できるようにしました。奏者育成のため、東京、横浜、大阪で技術指導と古典曲の伝承、普及に努めています。一般向け胡弓体験会も開催しています。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第九回は「胡弓」の演奏をお楽しみください。

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

AUNの最新情報、ライブのご案内などは公式サイトをご覧ください。
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8. 尺八 Shakuhachi

ようこそ!和楽器の世界へ

八.尺八 Shakuhachi 八.尺八 Shakuhachi

音色も奏法もバリエーション豊か

尺八といえば時代劇で虚無僧が吹くシーンを思い浮かべてしまうが、現在はジャズや即興音楽にまで用いられ、活躍の場は限りない。石垣征山さんにその注目点を伺いました。

リコーダーなどと違い音を出すのが難しい尺八だが、熟練すれば表現力豊かな演奏ができる。

尺八は木管楽器の一種でリードのないエアリード楽器に分類される。名称は管長が一尺八寸(約54.5㎝)であることに由来する。真竹を使用し、現在は中間部でつなぎ合わせるものが主流だ。一般的な尺八は5穴(表4穴、裏1穴)で、指穴の開閉だけで出せる基本音階は、レ/ファ/ソ/ラ/ドの5音。他の音は穴を半開にしたり、息を吹き込む角度を変化させて出す。かつては宗教楽器だったが、現在、ジャズや即興音楽などにも活用されている。

中国の唐代が起源とされ、日本には雅楽器として700年前後に伝来した。東大寺の正倉院には6穴3節の尺八が収められている。鎌倉時代から江戸時代初期までは、一節切(ひとよぎり)と呼ばれる短い尺八が使われ、武士の嗜みとして武家社会で流行した。北条幻庵はその名手だった。

江戸時代の中期には、禅の一派、普化(ふけ)宗修行の一環として、虚無僧が天蓋という編み笠をかぶって全国を歩いて尺八を吹いた。普化尺八と呼ばれ、現在の尺八の祖形となった。明治時代初頭に普化宗は廃止され、純粋に楽器として三味線や箏との合奏が盛んになった。

虚無僧が吹いたのは「古典本曲」と呼ばれ、はっきりとした拍子はない。他の楽器と合奏する一般的な楽曲は「外曲」と呼ばれる。尺八の流派は、江戸期に始まった古典本曲と外曲を演奏する「琴古流」と、明治時代に中尾都山が起こした都山(とざん)流が主流。

奏者に聴いたその魅力

石垣征山 Ishigaki Seizan

東京都豊島区出身。東京藝術大学音楽学部邦楽科に入学後、人間国宝・山本邦山に師事。都山流尺八楽会師範試験を首席登第、父、征山の名を襲名。2006年に尾上秀樹と『HIDE×HIDE』を結成。2010年、長谷検校記念第16回くまもと全国邦楽コンクールにて最優秀賞、文部科学大臣奨励賞を受賞。2013年都山流尺八楽会主催、本曲コンクールにて金賞、文部科学大臣賞、産経新聞社杯を受賞。

父が尺八、母が箏の演奏家という家庭環境に生まれたため、特別なものとしての認識より「そこにあって当たり前」な感覚でした。ですから惹かれた、というよりも最初から自分自身に結びついていたものだと思います。今は自分が思うままに歌い上げられることに心を奪われています。

尺八を聞くときの注目ポイントは?

意外にも「これをすべて同じ楽器で演奏しているのか」と思われるくらい、尺八には音色や奏法にバリエーションがあるのです。それを感じて楽しんでいただけるよう、変化に富んだ演奏を心がけております。時には主になり、時にはメロディーを支え、時には飛び跳ね、いろんなことをしてますので、メロディーを吹いているとき以外も「どこに意識をもって演奏しているのか」と想像しながら聴いていただけるとより楽しんでいただけると思います。

演奏に関しては、いわゆる超絶技巧的な早い指の動きのようなものよりも、「その曲に必要な奏法」+「ほんの少しのエゴ」を織り交ぜた唯一無二の音を出すことの方に心を砕いてます。

演奏する場所が国内か国外でお客さんの反応も違ってきます。日本のお客さんは遠慮がちで控えめな反応をする方が多い印象ですが、海外のお客さんはストレートな反応をする方が多いなと感じます。その会場の雰囲気に合った演奏ができるよう、心がけてやっています。

尺八の魅力は「十人十色」であり、「変幻自在」な演奏ができること。いろんな音色の尺八を、たくさん聴きくらべてみてほしいです。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第八回は「尺八」の演奏をお楽しみください。

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

AUNの最新情報、ライブのご案内などは公式サイトをご覧ください。
http://www.aunj.jp

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7. 十七絃箏 Jushichigen-Soh

ようこそ!和楽器の世界へ

七.十七絃箏 Jushichigen-Soh 七.十七絃箏 Jushichigen-Soh

宮城道雄が考案、低音域を出せる箏

長さも幅も厚みもある十七絃箏。大正時代に、合奏曲の低音部用として生み出された。その音楽性について、中学生の頃から箏を学んできた山野安珠美さんに教えていただきました。

十七絃箏は、「春の海」を作曲したことでも有名な箏曲家の宮城道雄が、合奏の低音部を担当する楽器として、1921年(大正10年)頃に考案したもの。クラシックのファンだった宮城道雄が、箏の音楽にハーモニーを求めたことが発想の契機と言われている。

十三絃では5音音階が標準だったが、十七絃では洋楽と同じ7音音階用に考案されており、現在では多くの奏者に使われている。十七絃を専門にするといった慣習はなく、楽曲や編成に応じて使いわける場合が多い。現在は、ベース的役割以外にも表現の幅を広げ、独奏曲やコンチェルト、低音だけのアンサンブルも作られるなど、さまざまな演奏シーンで活躍している。

十三絃が長さ180㎝、幅25㎝に対し、十七絃は長さ210㎝、幅35㎝と大きい。絃は絹または合成繊維だが、音域によって違う太さのものを用い、低音のため十三絃の絃よりも太めで、爪も厚めのものが使われることが多い。大きさや絃の数以外で十三絃箏と大きく違っているのは、右手側の絃の留め方。十三絃は心座と言われる穴に絃を通し、箏の裏側で結んで留める。十七絃は龍額または龍頭にネジで巻いて留めているため、琴柱の位置だけでなく、ネジの締め方でも音の高さを変えることができる。

宮城道雄は同時期、80本も絃がある大型の八十絃箏や、短箏なども考案したが、十七絃以外は普及しなかった。

奏者に聴いたその魅力

山野安珠美 Yamano Azumi

山口県出身。沢井忠夫、沢井一恵両氏に師事。沢井箏曲院教師、山口芸術短期大学非常勤講師。2003年第9回長谷検校記念全国邦楽コンクール優秀賞。2007年度山口県芸術文化振興奨励賞を受賞。東京と山口でのソロ活動を中心に、グループ参加も行い、洋楽器のアーティストとも共演。ロシア「エルミタージュ美術館音楽祭」にて、ソリストとしてオーケストラと共演するなど、海外公演も多数。

母が箏をやっていたことがきっかけで、私も始めました。子供の頃はピアノだったのですが、中学生の時に箏曲家の沢井忠夫先生と出会い、本格的に箏を学ぼうと決心しました。

十七絃箏の魅力は?

十七絃箏は、十三絃箏には出せない低音を出せるのが魅力で、ハーモニーを作る際のベース的な役割を果たします。

箏は、指でも爪でも弾けて、爪の場合は表、裏、横など付け方を変えることで、同じドの音でも種類以上の音色を出すことができます。その使い分けで音楽が作られていくので、他の楽器に比べても曲やシチュエーションごとに音色の見え方が違う、多彩な楽器だと思います。音の余韻も大好きで、箏ならではだと感じています。

最近、私たちの古典の演奏を聴いた海外の方から「ロックっぽいね」とよく言われます。古典は江戸時代の作品ですが、リズムも音色の使い方も新鮮で、AUNで現代的な曲を演奏しながら、古典に回帰する感覚になることがあります。

若い頃は西洋音楽を箏でどこまで再現できるか、他の楽器の中で箏が負けないことを考えていました。現在では、100人で演奏するオーケストラの世界を、箏一人でどう表現できるかと考え、あえて音を減らしたり、余韻を楽しむ箇所をつくったりと、案外それは古典の演奏に近寄っているかもしれません。

現代の音楽につながる古典作品は、三味線と歌、そこに箏が入った形です。桜や男女の話、名物など、時代時代の面白い情景を音楽の中に取り入れていく、こうした作業は昔も今も同じだと思います。そして、宮城道雄先生が十七絃を作られたように、ときどき革命児が現れ、そうした伝統と進化の上に今ここに至ります。私たちに何ができるのか、今を生きてる箏というところで、自分たちならではの音楽ができたらなと思っています。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第七回は「十七絃箏」の演奏をお楽しみください。

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

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6. チャッパ Chappa

ようこそ!和楽器の世界へ

六.チャッパ Chappa 六.チャッパ Chappa

自由な表現で曲に変化を生み出す

2枚一組で両手に持ち、打ち合わせて演奏する、小さなシンバルのようなチャッパ。独自の奏法を開拓してきたHIDEさんが、その面白さを語ってくれました。

シンバルのことを漢字では鈸(はち・ばつ)と書く。仏教儀式で用いられ、銅鑼(どら)と組み合わせて使われることや銅製であるため銅鈸(どうばつ)の呼び名もある。小型のものは民族芸能でも使われ、「チャッパ」と呼ぶ。他にも、手平がね、手拍子、 銅拍子など、様々な名で呼ばれてきた。

チャッパは洋楽のシンバルよりは小さく、飾り紐が付けられているのが特徴。2枚の円盤をシンバルのように打ち合わせると華やかな金属音を放つが、すり合わせて風の音を表現したり、余韻の中でビリビリと震わせたり、わざと反響を押さえた鈍い音を効果的に使ったりもする。

伝統芸能では、太鼓などと一緒に、賑やかにすり打つことにより、華やかな効果を生む。脇役に見えるが、奏者が演奏や曲調を把握して表現する必要があり、重要な存在といえる。 歌舞伎の下座(げざ)音楽の中でも活躍する。下座音楽とは歌舞伎の演出において、基本的に舞台下手の黒御簾(くろみす)の中で演奏される効果音楽のこと。陰囃子、黒御簾音楽とも呼ばれる。

鳴り物はチャッパの他に、本釣鐘、音程よりもジャーンという余韻に特徴がある円盤状の金属を打つ銅鑼、祭囃子で使われる真鍮製のすり鉦(かね)、歌舞伎の効果音として、寺や殺人場面にはつきものの音を出す松虫等の楽器から、樽、みくじ箱、ビービー笛等の雑楽器まで十数種類が助奏に使われる。

奏者に聴いたその魅力

HIDE hide

江戸っ子気質を活かした、唄って・踊れて・打てる現代の鳴物師。1987年、佐渡島を拠点とする和太鼓グループ「鼓童」に参加し、17年間活動。2004年に「鼓童」から独立し、「鳴物師 秀-HIDE-」としてソロ活動を開始。現在、日本で唯一のチャッパソリストとしてライブ活動やワークショップ講師として注目を集めている。鼓童時代、日本ゴールドディスク大賞(邦楽部門)日本レコード大賞特別賞を受賞。

佐渡の鼓童というグループに踊り手として入ったのですが、踊る機会が少なくて太鼓もやっていたんです。そうした中でチャッパに出会い、独自に奏法を開拓しているうちに、周りから評価されるようになりました。今でこそ太鼓のグループでよく使われている楽器ですが、当時は私のほかにチャッパを演奏する人間はいませんでした。

チャッパが専門という感覚はなく、和太鼓もやるし、音の出るものならば椅子でも叩きます。自分では鳴物師と呼んでいますが、わかりやすく言うとパーカッションですね。自分で楽器も開発します。高価な太鼓から、100円ショップの風鈴やフライパンまで、自分が面白そうだな、やりたいなと思ったら何でも鳴らします。

チャッパや鳴り物の魅力は?

もともと歌舞伎の下座とか見えない所で、効果音などを表現していたのを、私が表に出してやり始めたんです。日本は、空間美や自然美といった、四季の表情が世界一豊かな国です。その自然描写を楽器で表現しています。他の楽器が鳴っている中に、鳴り物を一つ入れるだけで、雰囲気がガラッと変わります。いつも、どこで入れたら面白いか、どう入れたらよいかを考えています。見て聴いて楽しんでほしいです。

チャッパは、箏や三味線のように伝統や系譜がはっきり残っておらず、何十種類もの音が出せるけど、お手本がない。手探りで音を創っています。奏者としては、何をやっても良い、自由度が高いところも魅力です。

チャッパの他にも様々な鳴り物がある。右手に見えるのは、「鈴なり」という言葉の語源ともなった神楽鈴。能「翁」の三番叟などにも用いられる。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第六回は「チャッパ」の演奏をお楽しみください。

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

AUNの最新情報、ライブのご案内などは公式サイトをご覧ください。
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5. 津軽三味線 Tsugarushamisen

ようこそ!和楽器の世界へ

五.津軽三味線 tsugarusyamisen 五.津軽三味線 tsugarusyamisen

力強さと繊細さで多くのファン

「叩き」と呼ばれる奏法、特徴的な「さわり」の音、速弾き。和楽器の中でも異質な発達をとげた津軽三味線を紹介してくださるのは、「AUN」の井上公平さんです。

太棹三味線の代表格で、「叩き」と呼ばれる独特の奏法による力強い音と、速弾きのリズミカルな音階が幅広い世代のファンを惹きつける津軽三味線。高橋竹山の著書によると、祭りの際、他のボサマ(盲目の門付芸人)より目立つように、より大きな音、派手な技を追求するようになり、三味線は太棹に、撥は速弾きに適した小振りなものになって、打楽器的奏法である叩きが発達したのだという。

津軽三味線の楽曲の原型は、新潟地方のごぜ (盲目の女旅芸人)の三味線で、北前船で青森県津軽地方に伝わったとされる。幕末に五所川原に生まれたボサマの「仁太坊」が始祖ともいわれ、それまで門付け芸として低く見られていた三味線に革新的な奏法を取り入れ、津軽三味線の原型を築いた。

昭和40年代の民謡ブームで一世を風靡し、三橋美智也らが津軽三味線と称して、定着を見る。本来は伴奏楽器として舞台袖で演奏するものだったが、時代が進むに連れ、三味線の前奏部分が独奏として独立していった。以後、高橋竹山らの活躍によって、広く知られるようになり、現代音楽として若者の支持を得るなど、他の三味線とは異質な発達を遂げた。

津軽三味線の皮は、以前は犬皮を使用していたが、動物愛護の観点から人工皮(リプル)が使われることが多いという。

奏者に聴いたその魅力

井上公平 Inoue Kohei

井上兄弟の双子の弟。2000年、兄 とともに「AUN」を結成。世界34カ 国にわたる演奏活動が認められ、06年 国土交通省「ビジットジャパン・キャンペーン」をプロデュース。日本の伝統と今を伝える和楽器奏者、日本が世界に発信する新しい形として注目を集める。また、森林保護を推進する環境 保護プロジェクト「株式会社ハートツリー」と協力し、売り上げの一部を里山再生に寄付する活動も行う。

 鬼太鼓座(おんでこざ)に入って、初めて和楽器による音楽があると知りました。それまでは、祭りで太鼓や囃子が聴こえてきたくらいで、音楽という認識もなかったです。私にとっては鬼太鼓座が和楽器の道のスタートと言えます。

 30年前は若い人が和楽器などやってないし、三味線はオジサン・オバサンがやる楽器というイメージでした。鬼太鼓座の舞台を見た時に、若い人でも楽しめる音楽を、和楽器で演奏できるのだと感心しました。そのときに先入観を払拭できたことで、一歩を踏み出すことができました。

 最初は高橋竹山さんの弟子・竹女さんに習いました。初めて津軽三味線を聴いた時は日本音階のメロディが入って来なくて、一体これは何だという感じでした。元々、ギターをやっていたのですが、実際に取り組んでみたら、ギターとは全く違っていました。この段階でさらに興味を持ち、やってみようという意欲が湧きました。

知ってほしい津軽三味線の魅力は?

 和楽器の中では歴史が浅く特殊ですが、演奏者は多いです。人を魅了する激しさと繊細さをあわせ持つ楽器で、抑揚をつけてムードを盛り上げることができます。

 三味線独特のビヨーンという「さわり」が特徴的ですが、下の写真のように一の糸の下に突起を付けて、わざと共振させているのです。海外公演で感じたことですが、アコースティックギターやヴァイオリンの澄んだ音に耳慣れたヨーロッパの人は、さわりは最初はノイズに聞こえるようです。 そうした魅力にも気づいてもらえればと思います。西洋では和音で感情表現をすることが多いのですが、和楽器では、単音の鳴らし方一つでさまざまな情景を表現するところも面白いですよ。

左)棹上部の反りは、天神または海老尾と呼ばれる。 一の糸にだけ「さわりの山」がある。ここに弦が触れることで三味線の特徴的な音色が出る。
右)糸を持ち上げる役目をする駒。駒の高さ、材質、大きさを変えることによっていくつもの音色を表現できる。

音を聴いてみよう!

シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第五回は「津軽三味線」の演奏をお楽しみください

監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。

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