生涯学習情報誌

日本の技

[財団助成事業報告] パリ8区区庁舎における展覧会[財団助成事業報告]
パリ8区区庁舎における展覧会

継続的交流を通して、双方向の学びの深まりに期待継続的交流を通して、双方向の学びの深まりに期待

本展を企画した〈技collection〉(芝本久美子代表)は、日本の伝統文化や伝統工芸品を未来に繋げていく活動をする非営利団体。2010年から毎年パリで展覧会を行っているが、2016年はパリ8区区長から招へいされ、在仏日本大使館の後援を得て開催した。こうした芝本氏らの活動を、生涯学習開発財団が評価した助成事業でもある。 展覧会では、本誌にもご登場いただいた、東京友禅の坂和清氏、陶芸の中尾純氏、Nishiura Styleの西浦喜八郎氏に、有田では珍しい女性の絵付師・村上三和子氏を加えた4氏の技と世界観が、パリの人々に発信された。

パリ8区区庁舎における展覧会 [財団助成事業報告]

主催者の①芝本氏 ②上野氏 ③西浦氏 ④金井氏らと、⑤当財団 佐藤

JAPON : Épanouissement éternel
開催期間
2016年11月28日〜12月7日
展示内容
西浦喜八郎(書)
坂和 清 (東京友禅)
中尾 純 (有田焼)
村上三和子(有田焼・絵付け)
特別展示
西浦焼

日本文化への関心が高い来場者

 展覧会期間中、来場者は約400名に上った。今回の来場者の特性として、すでに日本文化に興味があり、基本的知識がある方が多いと感じられた。セーブル美術館、セルヌスキ美術館を始めとする美術館関係者、ギャラリーオーナー、陶芸家、画家など、アート関係者が多数来場していたこともあり、作家本人への積極的な質問がしばしば見受けられた。そうした作家との対話や西浦喜八郎氏の書のデモンストレーション、坂和清氏の染色のワークショップなどを通して、日本文化への造詣をさらに深め、また、映像作品と磁器の組み合わせや若手作家の展示などから、伝統文化だけではない、日本の新しい感性にも興味も持っていただけたと思われる。

 来場者から「展覧会を継続すべき」との声を多くいただき、より深く多角的な日本文化への学びを求める方が少なくないことを確信した。

西浦氏によるデモ

村上三和子氏の絵付け

作家にとっても気づきが

 作家と来場者が直接コミュニケーションをとることで、文化的な差異、技術的な共通点の発見など、作家と来場者、双方に発見や学びがあったようだ。たとえば東京友禅の坂和氏は、完成品の着物・帯以外に染色前の模様のみの生地も展示し、制作工程を含めたより具体的な解説を行った。その結果、繊細な絵柄や色彩を生み出す技術にも多くの称賛が寄せられていた。参加者からは、染色の技法の中に、ポーセリンアートと共通する技法が見受けられるといった感想が出ていた。

 12月1日に行われた染色のワークショップには、約20名の参加者があった。フランス人はあまり細かい文様を好まず、また、柄を左右対称に作る傾向があるなど、日本人対象のワークショップとの違いがみられ、作家にとっても新鮮な発見があったようだ。

日本とフランスの雨の違いを楽しむ

 村上三和子氏の作品は、雨の中に咲く花がテーマであった。天井に映した映像とコラボレーションをするという初の試みを行った結果、フランスの雨と日本の雨の違いを、視覚のみならず聴覚からも感じ取ってもらえる場を設けることができた。

 「日本の雨は、フランスの霧雨のような雨に比べて雨粒が大きいのです」という説明を行うと、より村上作品の中に描かれている雨の表現に興味が深まり、日仏の差異を楽しむ来場者を多く見かけた。ポツポツ…から始まり、ザーッと大雨になっていく雨音。同じ「雨」でも、表情が異なることは新鮮な発見であり、村上氏の絵付けによる巧みな花と雨粒表現によって、日本の自然の一端を疑似体験する感覚だっただろう。また、絵画や映画など他の日本文化における雨の表現に関して、理解が深まったとの声もあった。

11月30日には区長主催ヴェルニサージュが開催され、多くの美術関係者が来場。西浦喜八郎氏の書のデモンストレーションが行われ、その作品は8区の区庁舎に寄贈された。また、セルヌスキ・パリ市立美術館の希望により、中尾純氏の作品「青白磁面取花器」が収蔵作品となった。

交流継続を望む多くのオファー

 今回の大きな成果の一つに、今後に繋がるオファーを何件かいただけたことがあげられる。サンジェルマンのギャラリーやロワールのお城での展覧会、隣国オランダでの展覧会などだ。継続的に日本の工芸を紹介し交流を重ねることで、日本文化の魅力の浸透にとどまらず、双方向の学びがより深まると期待できる。また、パリの陶磁器美術館の技術者と交流する提案もあり、作家同士が学び合う技術力向上の場となる可能性がある。

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