生涯学習情報誌

日本の技

インタビュー11 ガラス工芸 イワタ ルリ氏インタビュー 11
ガラス工芸 イワタ ルリ氏

鋳込みの技術をガラスに活かす鋳込みの技術をガラスに活かす

幼いころから身近でガラスに親しんできたイワタルリさん。祖父の代から続く日本のガラス工芸の技術を単に継承するだけでなく、鋳造の技法を取り入れた新たな試みで存在感のある作品づくりを展開している。

聞き手上野由美子

ガラス工芸 イワタ ルリ氏
イワタ ルリ氏
1977年
東京藝術大学大学院修了
1979年
第1回個展開催(以降毎年開催)
1989年
第14回吉田五十八賞受賞「建築関連美術部門」
1990年
’90現代ガラス造形展・優秀賞受賞(彫刻の森美術館)
1992年~
ドイツ、チェコスロバキア、フランス、イギリス、スウェーデン各国現代美術展に立体作品を招待出品
1998年
サントリー美術館大賞展’98 大賞受賞
2001年
資生堂・椿会展出品(〜2005年)
〈収蔵〉 米国コーニング社/全興寺 涅槃仏/資生堂掛川アートハウス/東京ミッドタウン メインタワー/石川県能登島ガラス美術館 他国内外に多数

鋳物の技術と出会って新たなガラスの道が開けた

――自然にガラスの世界に入られたのですか。

 そうです。継げと言われたことはないですが、名前がルリ(=ガラス)でしょ。母がよく工場に連れてってくれて、みんな遊んでるように見えてました。宙吹き(るつぼで溶けたガラスを吹き棹の先端に巻き取り、一方の端から息を吹き込んで、膨らませながら形を整えていく基本技術)をする職人の動きをずっと見ていたので、目に焼き付いていました。実技としてガラス工芸を始めたのは東京芸大の1年目で、見よう見まねで作業を覚えていくのですが、宙吹きが目に焼き付いていた経験は、技術の上達には大いに役立ちました。

――お祖母様のお父様が東京美術学校を立ち上げた彫刻家の竹内久一で、藤七さん、久利さん、ルリさんと4代続く東京芸大ご一家ですね。

 はい、血統書付きだなと冷やかされることがありますが、私が入学した頃はガラスに関連した学科はなく、私は鋳金科に行きました。現場が工房というより工場で、実家の工場の記憶とオーバーラップして親近感を抱きました。おかげで、鋳物の技術である鋳込みと出会って、新たなガラスの道が開けた感じですね。

職人とのグループ作業

――作風へのお祖父様やご両親の影響はありますか。

 いや、その点はむしろ反発しましたね。父からは「まずは真似て勉強したらどうか」とよく言われましたが、「同じものは作りたくない」と拒否し続けました。そうしたこともあり、鋳込みの技術を初めてガラスに活かそうとしたのだと思います。

――大きな作品もありますがどのように作るのですか。

 大きいものや重いものもあるため、作品づくりは4、5人の職人とグループで取り組んでいます。デザインをするのは私ですが、職人と相談しながら、それぞれの得意技や各自の体調などを考慮して、うまく進むように努力しています。まだ技術が十分でない職人の教育も私の仕事です。皆の息が合って思い通りのものができたときは、サーッと天上から光が射す感じがします。

 制作を始めるときに、まず床に完成イメージの絵を描くんですが、完成作品はだいたい描いた絵と同じものになりますね。
 鋳込みの場合は鋳型に溶かしたガラスを流し込み、固まって取り出したものをくっつけていきます。鋳型は石膏、砂、蝋などで作ります。サントリー美術館大賞作品は、型の石膏やメッシュの跡を残し、ガラスの質感を際立たせました。宙吹きもけっこう重くて、もう1人が支えて2人がかりで作業することもあります。しかも熱いので夏場は大変です。捻ったガラスで造形された作品は、モールと呼ばれる型に入れて、まだガラスが熱いう ちに取り出してくっつけていきます。

存在感を大切にしています

――モチーフはどうやって決めるのですか。

 意外に思われるかもしれませんが、ひらめきとかでは作りません。1つ作ったら、次はここを変えてみようという感じで繋がっているんですね。たぶん一生継続するんだと思います。ただ、誰もやってない変化をするために、どうやって作ろうかと新しい技術を考えたり、試したりはよくやっています。そして、立体作品でも工芸作品でも、存在感を大切にしています。子供の頃から液状に溶けたガラスが好きで、そこから作り手の個性が表れ る作品にでき上がっていくのが面白いです。

――特徴である鮮やかな色はどうやって出すのですか。

 色は難しくて、それぞれの工場ごとに作り方が違う企業秘密なんですね。特に赤は難しく、気に入った赤が出せた時にはストックしておいて、次の作品に生かすようにしています。昔は透明ガラスの周りに色のるつぼが並んでいましたが、近年は質の良い色ガラスが販売されていて、購入して使うこともあります。

――今年も個展を開催されるんですよね。

 はい。これから作品作りの追い込みです。東京・六本木のサボア・ヴィーブルで工芸作品の新作を、富山市ガラス美術館では私の彫刻作品を中心に、岩田三世代展として開催します。

聞き手:上野由美子
古代オリエントガラス研究家。UCL(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)考古学研究所在籍中。2012年国際日本伝統工芸振興会の評議員。ARTP副団長として王家の谷発掘プロジェクトに参加(1999年〜2002年)。聖心女子大学卒業論文『ペルシアガラスにおける円形切子装飾に関する考察』、修士論文『紀元前2000年紀に於けるコア・ガラス容器製作の線紋装飾に関する考察』ほか、執筆・著書多数。

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