生涯学習情報誌
鬼の学び ―鬼塚忠のアンテナエッセイ―
12. 学びは自分を元気にしてくれる
派遣で入って10年後に、その会社の役員になる。どのように仕事をしたのか。二宮英樹さんは、「ベストな解決策を超高速で届ける」「自ら行動し、汗をかいて経験する」など、惜しみなく成功の秘訣を教えてくれた。
本日は、大手企業に派遣から入り、たった10年間でグループ会社役員にまで上り詰め、その経緯を、最近、ダイヤモンド社より『派遣で入った僕が、34歳で巨大グループ企業の役員になった小さな成功法則』を上梓した二宮英樹さんにお越しいただきました。
鬼塚 こんにちは。二宮さんは、24歳で大塚製薬に派遣として潜り込み、その後わずか10年間で、大塚グループの会社の執行役員にまで駆け上がり、その後あっさりと退職し、独立したとのことですが、にわか信じられない話です。本当ですよね。
二宮 もちろん本当です。
ヘルプデスクからのスタートでした。少し英語が出来たところから、海外とのコミュニケーションを担当しました。仕事ぶりが認められ、数ヶ月のうちに契約社員のオファーを頂きました。そこから、仕事を通じて世界中のITスキルの高いエンジニアとチームを作り、様々な課題に取り組みました。一つ波を超えると、もっと大きな波が来るように、次から次へと仕事をこなしていきました。経験を積むには最高の職場でした。
4年後に28歳でホールディングス兼任となるチャンスが巡って来ました。32歳で社員になり、IT推進室の室長補佐になりました。34歳の時にグループのサプライチェーン上の課題解決の為に、大塚倉庫の執行役員IT統括部長に着任して、年来のレガシー問題に取り組みました。3年かかりましたが問題を解決して、その後1年間のシステム稼働を見届け、問題のないことを確認してから38歳で独立しました。
仕事が速いと楽しそうに見える
鬼塚 まるで新幹線の車窓から在来線をみるようなスピードで駆け上がっていますが、その出世の秘密はなんでしょうか?
二宮 ひとえに、サポートデスクとして、多くの人の役に立ったことに尽きると思います。心がけたことは、どのような課題であっても、全力で相手にとってベストな解決策を、「超高速」で届けるよう努めたことです。
仕事が速くて、結果的に相手の期待値を超えていれば、どんな相手からも感謝され、次からもご指名頂けるようになります。みんな問題が解決されたいだけであって、解決方法はあまり問われません。自分の勝手な思いで、時間をかけて策を練っても、遅ければ、全く喜ばれることはありません。
スピードは量を捌くことを可能にし、その量は結果的に品質を押し上げます。仕事上の信頼は、結果の積み上げでしかなく、積み上げていかなければ、信頼も得られないと思います。下手なことをすると、長年かけた信頼は一瞬で崩れてしまいます。
鬼塚 何が二宮さんをそうさせたのでしょうか?
二宮 特に動機はありません。動機は思いつきませんが、仕事のコツはリズムだと思います。次から次に相談事が来ても、パンパンッと歯切れ良く仕事を消化できると、気持ち良く感じます。気分がいいと他の人からは仕事が楽しそうに見えるようです。誰も暗い人より明るい人の方が仕事を頼みたいと思うし、楽しそうな人の方と話したいと思うのと同じだと思います。
そういうリズムの循環を作って気持ち良くなった経験……ついてはその結果みんなに頼まれて、うまくできて、楽しくなっての成功体験があったからこそ、仕事のスピードアップや効率化に大変大きなモチベーションが湧いてきていたのだと思います。
一方、人に効率化を求められても、全くモチベーション上がらないのと同じように、やっぱり自分がやる気になれないと、何をやっても、気が入らないし、リズムも出ないし、うまくいかないと思います。
変わりたいなら外部の人や知識に触れよう
鬼塚 二宮さんは、IT知識とか、特に大学とかで学んだわけでなく、自分で仕事をしながら、あるいは試行錯誤して独学のような形で学んだそうですが、ひとは忙しいと学ぶというより、業務をこなすことに必死になりがちですが、どうでしょうか?
二宮 日本人はちょっと他民族より責任感が強すぎて、与えられた仕事をこなすことに必死になってしまいがちです。多くの人は学ぶことの優先順位を下げてしまっているだけのように思います。そういうことを続けても、何も目新しい気づきはありませんし、そもそもそういう仕事はつまらない。自然と視野を狭くしていくだけです。
世の中には、驚くべき最新技術や革新的な取り組みをしている人達がいます。そういうものは、通常、組織の外にあります。日本人は、本質的に、より良いものを取り入れて、自分の血肉に変えることができることは、歴史が証明しています。明治維新や戦後の高度経済成長初期の日本人はみんなやって来ていたことだと思います。私たちのDNAにはそういったものが備わっています。
そのために、常に、外からいろんな学びを得て、取り入れることが重要です。これができないのは、だいたい無意識の習慣にハマっているだけなので、本当に変わりたいと思うなら、休んだり、外部の人間や知識に触れ、リフレッシュし、自分を強制的に切り替えていく必要があると思います。
鬼塚 それは仕事に生かすことありきで学んでいるのですか?
二宮 仕事に生かすことを考えるとスキルや知識に関心が行きがちです。仕事に生かすことだけを勉強するなら、おそらくそれでは作業員止まりです。組織や世の中は人の関係によって構成されています。何よりも人との関係が重要です。
よく見てください。経営者の方々は、全てのスキルを備えたリーダーですか? いろんな人と巧みにコミュニケーションをとり、問題を解決する能力がある人が多いのではないでしょうか。
有能なリーダーになりたいならば、専門のことばかり学ぶより、1つか2つの専門性に加え、日常的に会話する哲学的な話、最新情報、歴史、地政学、経済やファイナンス、そういった幅広いことに興味を持ったほうがいい。そうするといろんな人と会話する際に、共通の関心事を持つことができ、年齢や立場を超えて、仲良くなれます。
いろんな人と仲良くなれたら、その人たちの力を借りることができるので、結果的に、大きな仕事の課題に取り組むときに、自分一人ではできないことも、知恵や力を貸してくれることにつながります。これは仕事に限らず、生きていく上でとても大切なことだと思います。
知恵は経験が重なって初めて血肉になる
鬼塚 学び始めるのに、学力とか年齢は関係していますか?
二宮 基本的には関係ないと思います。ただ、20代の体力のある時代で、家族や守るものが少ない時に、思い切ってガムシャラに働いたり、没頭したり、突き詰めたりする行動をとれた方が、より大きな成長の糧を得られることは間違いないです。
僕は20代は年間370冊のビジネス書を読み漁って、いろんな知恵を蓄えました。初めは人脈も何もないですが、いろんなことを知ってると、生きてく中で、「あぁ、これがそういうことか!」というふうに気づくことがたくさん出てきます。
知恵は経験が重なって初めて自分の血肉になります。いろんな経験があればあるほど、人は深みが出てくるので、話のネタも増えますから、そのあとより多くの人に興味を持ってもらえるようになると思います。そういう意味では、早ければ早い方が有利であると思いますが、いつからでも始められることには変わりないのではないかと思います。
鬼塚 では最後に、これは生涯学習をテーマにする情報誌なので、その読者に学びとは何か、を短く何かアドバイスしていただけませんか?
二宮 学びとは、学んだことを生かして経験することで、自分を元気にしてくれるものだと思います。ただし、知識をためたり研究したりするばかりでは、何も生まれませんし、狙って学んだものは、試験にしか役立たないと思います。勉強するだけで成功するなら、今頃世界は成功者で溢れ、大金持ちばかりだと思います。
自ら行動し、汗をかいて経験することが何よりも大事です。何かに取り組んでいれば、学んだ知恵が役立つときはきっと現れます。そして、あるとき関心事が重なり合う仲間を見つけたとき、とても話題を共有できると思います。
そうやって楽しい経験を重ねていけば、仲間に出会い、人生が有意義になり、よりもっといろんな経験や学びをしたいという欲求に変わるのではないかと思います。
鬼塚 学びのある話でした。本日はありがとうございました。
鬼塚忠(おにつか ただし)
1965年鹿児島市生まれ。鹿児島大学卒業。卒業後、世界40か国を放浪。1997年から海外書籍の版権エージェント会社に勤務。2001年、日本人作家のエージェント業を行う「アップルシード・エージェンシー」を設立。現在、経営者、作家、脚本家として活躍。「劇団もしも」も主宰している。
著書:『海峡を渡るバイオリン』(2004年フジテレビ45周年記念ドラマ化。文化庁芸術祭優秀賞受賞)、『Little DJ』(2007年映画化)、『僕たちのプレイボール』(2012年映画化)、『カルテット!』(2012年映画化)、『花戦さ』(2017年映画化。日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)など多数。
http://www.appleseed.co.jp/aboutus/aboutceo.html