コラム

勇気は育てることができる

当財団の資格認定後援事業に登録されている(株)クエスト総合研究所。
その代表者 柴﨑嘉寿隆(かずたか)さんが、今年5月に『勇気の育て方』を上梓しました。

自著を手に持つ柴﨑さん

キャンプで引き出す勇気と自立心

柴﨑さんは、NPO法人子ども未来研究所の理事長も務めています。
子ども未来研究所では、小中学生を対象に、子どもにとことん向き合い、自立をうながす野外体験学習「グロースセミナー」*を約30年にわたって実施してきました。

野外体験学習の中身は、4泊5日のキャンプです。
場所は、北海道の真ん中あたり、十勝平野を見下ろす士幌高原ヌプカの里。

『勇気の育て方』では、このキャンプで起きた実際のエピソードを紹介。
なぜ、たったの5日間で子どもが変わるのか。
どうすれば、子どもの勇気や自立心を引き出せるのか。

それを、架空の女の子、小3のさくらちゃんを主人公にして物語形式で書かれています。
知り合いもなく、キャンプに初めて参加した人見知りのさくらちゃん。
はたして無事に全行程を終えられるのでしょうか。

ヌプカの里にて朝の体操

*柴﨑さんがNPO法人子ども未来研究所を立ち上げたのは1999年ですが、グロースセミナーは1990年から始められています。グロースセミナーは、事前のセットアップセミナーと事後のフォローアップセミナーで1セット。2020年、2021年は中止になりました。

本当はどうしたいの?

マウンテンバイクで30キロ走る。
急斜面や岩場のある山を登る。
自分たちで掘ったジャガイモを使ってカレーを作る。
キャンプファイヤーやナイトハイクまで。

「他のキャンプとは全く違う」と言われるグロースセミナーの大きな特徴は、こうしたプログラムに参加するかしないかを、子ども自身が考え決めること。チーム作りや役割分担もそう。大人は決して強制しません。

けれど、「怖い」「できない」「やりたくない」と、泣き出してしまう子も。 柴﨑さんはそのつど、「君はどうしたいの?」と問いかけ、子どもが自分で答えを出すのを根気よく待ちます。

どんな小さな声でも大切な声。だから、一人でも違う意見があればチーム全員で納得するまで話し合い、単純にジャンケンや多数決で決めることもしません。悩みや葛藤こそ成長の土台です。そこから一歩踏み出す勇気の芽を、自分の内に見つけていく子どもたち。全行程を終える頃には、参加者全員が晴れ晴れした顔になっているそう。

チームでカレー作り。大人は一切手伝いません
マウンテンバイクの実習は、スタッフがきちんとサポートします
子どもが自分で答えを出すまでじっと寄り添う柴﨑さん
約2時間かけて登った標高1,186mの白雲山山頂付近

自分に寄り添って生きよう!

さくらちゃんの揺れ動く気持ちとともに描かれた19の物語一つひとつに、解説が綴られています。それは柴﨑さんが30年間、子どもや親と真正面からぶつかり伝えてきたメッセージでもあるのです。

「勇気は育てることができる」
「自立をするために最も重要なことは、自分を認めること」
「自分を認め、自分を大切にすることが、実は子育ての一番大事なスタート」
「答えが見つからないもやもやした時間は、心が育つ大切な時間」

そんな言葉の数々に、思わずハッとさせられます。

実は柴﨑さん自身、自分の思いを言えない子どもで、30歳までもがいていたそう。 その深い悩みの中で、「どうしたら社会に認めてもらえるのか」と他人基準で考えるのを止めて、「自分がどうしたいのか」と思考を転換してみたら、自分は幸せでいたいんだと素直に認められ、今まで背負っていた重いものがボロボロなくなっていったと言います。

未来を創る子どもたちにも、安心して自分で決める場を提供すれば、自分で考える力がつくのではないか。そうした思いで始めたグロースセミナーの目的であり、柴﨑さんの自立の定義は、

「自分で決めて、自分で行動して、欲しい結果を自ら創り出していく」

です。

文中、柴﨑さんは、「嫌みのきつい上司に悩んでいるときは」「夫婦げんかをしたときは」といった悩みにも、独自の視点からアドバイス。単に親向けの育児本とはなっていません。

この本は、問題に直面するとつい、「どうすべきなのか」と正解を探してしまう人に、それより「自分はどうしたいのか」、嘘のない気持ちで向き合ってみよう、自分の軸を大切にしよう、と熱い声援を送っているのです。