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生涯学習講演会レポート

多元的共生社会における生涯学習を考えるシリーズ第28回

人生100年時代
プレイフルで行こう!

講演者:上田 信行(同志社女子大学名誉教授、ネオミュージアム館長)
山崎 和彦(武蔵野美術大学教授、Xデザイン学校共同代表)
苅宿 俊文(青山学院大学社会情報学部教授、Ph.D.(Ed))
日 時:2022年3月19日(土)10:00~12:30
会 場:オンライン開催(ZOOM)

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はじめに~ワクワクとドキドキが共存するのが、プレイフル

ファシリテーター:本日はご参加ありがとうございます。今日は「プレイフル」を実践する上田先生、山崎先生、苅宿先生にJamセッションをしていただく、そんな時間になればと思っています。まずは、今日のキーワードであるプレイフルから。こちらは上田先生が提唱されている言葉になりますが、このプレイフルについて上田先生からお話いただけますでしょうか。

上田先生(※以下敬称略):最初から刺激的な質問ではじまりますね(笑)。「ワクワク」とか「ドキドキ」という言葉がありますけれど、「ドキドキ」はちょっと不安の要素が入りますね。「ワクワク」はなにか面白いことが起こりそうだという、そんな感じ。この「ドキドキ」と「ワクワク」が共存すると、実は「プレイフル」な感覚が出るんですね。今日も確実にうまくいくことが分かっていたり、アジェンダがきっちりと決まっていたりすると、あまりワクワクしません。ドキドキもしないと思うんですよ。最終的にみなさんが面白いなあと言ってくださるかドキドキしながら、みなさんと一緒に考えることにワクワクもしています。そんな感じをプレイフルとしながら、はじめていきたいと思います。

1998年オランダにて。プレイフルという言葉を見つけた原風景

上田:「プレイフル」という言葉を使い始めたのは1999年ごろのことです。ベネッセ教育総合研究所が支援する「チャイルド・リサーチ・ネット」という子ども学(Child Science)の研究所があるのですが、当時2年に一度、世界大会を開いていたんですね。その設立者の小林登先生から「1999年の世界大会に、何か面白い案ない?」と聞かれて、「これからワークショップというものが面白くなりそうなので、国際会議ではなくてワークショップをしませんか?」と提案したのがはじまりでした。

開催まで1年くらい時間があったので、中京大学の宮田義郎先生や、同志社国際中・高等学校のヒレル・ワイントラウブ先生など、5人くらいで考えてみようと。そんなタイミングで、Doors of Perceptionという国際学会に呼ばれたんです。その学会テーマが「PLAY」でした。ベネッセのお話があった直後だったので、「これはなにかあるぞ」とワイントラウブ先生とワクワクしながら行ったんです。

ちょうど日本では総合的な学習の時間が始まろうとしたときで、新しい学びに期待が寄せられているようなタイミングでした。ベネッセの大会にもかっこいいタイトルを付けないといけないと思いながら、オランダでキーワードが見つけられたらと思っていたんですね。そうしたら、あったんです! 3日間の国際学会のあらゆる場面で、プレイフル、プレイフルというワードが飛び交っていた。かちっと決まった言葉というより文脈のなかで、プレイフル・アクティビティとか、プレイフル・アプロ―チとかやたらと出てきて、これはいけるんじゃないかと。

「PLAY」をテーマとした学会で何を話すかは決めてなかったんですけど、ワイントラウブ先生と1000人の参加者へのお土産は持っていこうとだけ決めていました。ただ予算もあるし、大きなものは持っていけないので、モールを1000本買って。1998年ごろの欧米の学会では、非常にお土産が大事にされていたんですね。学会全体のお土産としては、暗くなると光る蛍光色でPLAYと書かれた枕が椅子に置かれていて、僕らはその横にそっとモールを一本ずつ置いて、「なんとかしようぜ」と。

僕たちの発表になったとき、まず「みなさん、楽しんでますか?」って聞いてみました。PLAYについてのシリアスな内容の発表ばっかりだったので、「Do you want to play?」って。そうしたら会場が「OHHHH!」となったんです。ワイントラウブ先生と「これはいけるかもしれない」と顔を見合わせて、こう言ったんです。「モールを左の指に巻いて、あなたがイメージするPLAYを形にしてください。非常に抽象的な言葉なので、なにか見える形にしてください」と。そうしたらみな、非常に真剣になってつくりはじめたんですよ。できあがったら、横の人と立って、つくったものを一緒に見ながら話をしてもらいました。お互いの顔を見ながら、「PLAYってなんですか?」と話してもなんか盛り上がらないけれど、イメージを形にしたものをふたりで見ながら話をするとうまくいくということを考えていたんです。

実際やってみると、もうすごいことになったんです。会場の1000人が非常に興奮しだして、誰かが枕を投げたんですよ。そうしたらみんなが投げ出して、中継画面を見たら本当に雪が降っているような感じになったんです。「これってPLAYじゃないですか?」と言って、発表を終えました。そのあとオランダの国立のデザインの研究所に呼ばれて、すごく褒めていただいたんですよ。「なかなか、あそこまでできないんです。固い学会がすごくいい感じになりました」って。雪のように降る枕を見ながら僕たちもすごいなあと思っていましたが、まさにプレイフル・スピリットにあふれた、ひとつの新しい学会の形がそこにはあったんだなと。

そんな経験があって、ベネッセには「プレイフルをテーマにしましょう」と提案しました。なので、僕たちがプレイフルという言葉を意識して使い始めたのは1999年。それから23年間、日本語にするならどういう言葉が近いんだろうと何度も考えましたが、なかなか難しいですね。遊びという言葉がありますが、遊びと学びは別物というイメージもあるので、何か定義をしたくなるし、あるいは定義すると窮屈で大事なことが飛んでいく気がしたわけですよ。なので、なんとか日本語にしようとするときには、その場の状況にあわせて、わかりやすいイメージとして提供するようにしています。

状況に依存する言葉、プレイフル。苅宿先生、山崎先生にとってのプレイフルとは

上田:今日もですね、プレイフルをどう説明するかなというときに、オランダでの原風景をお伝えして、想像していただきました。「ああ、そうなんだ。プレイフルというのは、最初プレイフル・スピリットということを大事にしていたんだな…」と。そんな口火を切らせていただいて、苅宿先生、山崎先生に感想をお聞きできればと思いますが、いかがですか。

苅宿先生(※以下敬称略):ありがとうございました。まず申し上げたいのは、上田先生から学ぶためには、上田先生になってみるっていうことが大事なんですね。どういうことかというと、この四半世紀、私たちは知識を学んで複製していくことに限界を感じて、意味生成をどんどん積み重ねていこうとしてきたと思うんですね。そのプロセスを先駆的に味わってくださっているのが上田先生。今、上田先生がプレイフルの出自を教えてくださったわけですが、そのときに私たちに大事なのは、学会の壇上でドキドキしながら、なにか現状を少しもしくは大きく変えていくための、ちょっとリスクもあることに挑もうとしている上田先生になってみるということなんです。

そうやって私が何をしたのかというと、佐伯胖先生、高木光太郎先生と『ワークショップと学び』(東京大学出版会・2012年)という3冊のシリーズ本を出したんですね。その本のなかで、佐伯胖先生が言った概念が「まなびほぐし」でした。このまなびほぐしという日本語がプレイフルとどう重なるかというと、あの雪のようだった枕が、まなびほぐされていくことをいかに象徴していたのか。真面目にやり続けて、固くなっているものをほぐしていく。それが私の解釈のプレイフルなんですね。

上田先生が常に提供してくれることやワークショップが、私にとっては、まなびほぐしのデザインのなかのアクティビティだと考えられるんです。私には、プレイフルがまなびほぐしであると捉えられるように、みなさんも上田先生になったつもりで、「じゃあ、自分にフィットする言葉はなんだろう」と、ちょっと気にしていただければと感じております。

上田:僕たちがオランダの研究所で褒められたのは、苅宿先生がおっしゃった「よく、ほぐしてくれました」ということだったのだと思います。言葉だけでカチカチにやるより、共通体験をもとにディスカッションをして、新しい価値を生成していくほうが面白いよねと、僕たちは暗黙なメッセージを出していたのかもしれません。山崎先生、デザインの立場から見ていかがですか?

山崎先生(※以下敬称略):「プレイフル」という言葉を聞いてデザインの世界で思い出すのは、イタリアのアキッレ・カスティリオーニというデザイナーですね。彼は、すべての道具、デザインはプレイフルであるべきだと言っているんです。子供がおもちゃを楽しむように道具を楽しむ、そういうようなものがデザインとしてあるべきだと。彼のプロダクトにクリックという照明のスイッチがあるんですが、スイッチをオン/オフしたときの音が小鳥のさえずりに聞こえるようにデザインしているんです。小鳥のさえずりが聞こえると、スイッチを押すたびに楽しくなるよね、子供がおもちゃを遊ぶようにスイッチを押せたらいいよねと言っているのが、上田先生の言うプレイフルにも通じるのかなあと感じました。

上田:ありがとうございます。スイッチという人工物のなかに、プレイフルを埋め込むというのは素晴らしい。今日のポスターもそうで、ポスターを見ただけでプレイフルな3人の話を聞けるんじゃないかとワクワクしますよね。テーマの「プレイフルで行こう!」もね、そう言うだけで元気がでる、不思議な言葉です。ただプレイフルは、誰と、どんな場所で、どんな話をするときに使うかで変わってくる、リアルタイムで意味が生成されていくような言葉でもあるんですね。すごく状況に依存しているという意味で、僕にとっては飽きない言葉です。ですから、みなさんもいろんな形でプレイフルという言葉を使っていただけるといいかなと思うんです。

プレイフルな空間、メタフロアがもたらすもの

上田:最近のGQマガジンにBTSのリーダーのインタビューが載っていたんです。「あなたがかっこいいと思うときはどんなときですか」という質問に対して、「メタ認知を上手に使うとき」と答えていました。あのBTSがメタ認知という言葉を! これで世界中に広まったと思うんですね。彼は、何かハプニングが起きたときに、さまざまな角度からながめて問題を解決する、そういうメタ認知をうまく使いながら状況をより良くしていくときがかっこいいって言うんです。それ、かっこいいですよね。ワークショップをする方はメタ認知を大事にしてきたと思うんですけど、BTSがメタ認知と言う時代です。みなさんもぜひ、大事な言葉をもっと日常のなかに埋め込んで、かっこよく使っていけたらいいかなと思いますね。そうやって自分なりにプレイフルを使っていくと、なにか空気感が広がっていくような気がしていますが、苅宿先生どうですか?

苅宿:教えていただいたプレイフルという概念を、自身の立ち振る舞いにどう埋め込めばいいのか。そんなことを思った方は、まず上田先生に巻き込まれてみるといいですね。それってどんなものかと、テイスティングするように巻き込まれてみる。そうするとですね、メタ的に自分をとらえる力も育っていくんですね。やってみないとわからないことに、どれだけ自分の時間を費やすのかがポイントだと思っていて、まずは巻き込まれてみてください。言葉で聞いたことがいかに体験できるのか。自分のメタ認知を育てるためにも、ぜひ上田先生に巻き込まれてみてほしいと思いますね。

上田:メタな視点を育てるといえば、同志社女子大学に赴任したときに、ワークショップができる演習室をつくっていただいたんです。その演習室で特徴的なのが、ロフトのような2階のメタフロア。体験したことをどう再構成していくか、それを空間の仕組みとして考えたわけです。1階が経験のフロアで、体を動かしたり、議論したり、モノをつくったりする。それを俯瞰するために、体ごと2階のメタフロアに動かす。そうして身体と認知を重ね合わせる。オランダでモールや枕といった道具が大きな役割を果たしたように、空間も大事だと当初から考えていたんです。豊かな体験やアクティビティをどう提供していくかを考えると同時に、それをどうやって自分のものにしていくか、言語化しながら体に染みこませていくのか。それをまたどう体験し直すのかというような、プレイフルな空間にもこだわってきたんですね。

山崎:メタフロアの話をお聞きして、オランダのデルフト工科大学を思い出しました。そこのデザインの建物は1階がぜんぶ工作スペースなんです。教室や研究室は上の階にあって、いつも工作している様子が見える、そんな大学のつくりになっているんですね。

僕らも3年前、武蔵野美術大学で新しい学科をつくるにあたって、市ヶ谷に新校舎を建てたんです。上層階は概念やメタ的に考えるフロア、真ん中はモノづくりのフロア。それだけだとデルフトと同じなので、僕らはもうひとつ付け加えました。それが1階で、無印と一緒につくった、地域や市民の人たちと共創できる社会実装のフロアです。一見、無印の店舗なのですが、実は大学の食堂でもある。1階の無印で自然と市民や子供たちとワークショップができて、上層階で今日やったことはなんだったんだろうとメタ的に考えることができるようにしました。

上田:山崎先生がおっしゃったように、僕も1階、2階、3階と学びに階層をつくりたかったんですね。1階で経験して、2階は直後、もしくはリアルタイムでリフレクションする場。3階は現場と切り離して、すこし汎用的なものにできないだろうかと考える、というような階層として。同じように、ワークショップのデザインも考えていました。面白いアクティビティを考えて、抽象化してモデル化してどういう構造になっているのかと考えて、さらにそれが理論とどうリンクするのかと、上下行ったり来たりする。認知的な動き、身体的な動き、それがどんなアクティビティになるのかを含めて、ワークショップをデザインすることに面白さを感じていたということですね。

【プレイフルをテーマとしたグループ対話(略)】
【Q&A(略)】

最後に~Jamセッションを終えて

上田:ありがとうございました。『プレイフル・シンキング』(宣伝会議・2009年)という本を書いてから、「具体的なアクションはどうしたらいいですか?」とよく聞かれました。僕は「スーパーHOWで考えよう」と答えています。プレイフル・シンキングは、「できる/できない」で考えるのではなくて、「どうやったらできるか」を考えること。「Can I do it?」ではなく、「How can I do it?」。さらに「How can WE do it?」とすれば、みんなでどうやったらいいか。とくに今のコロナの時代は制約も多くて、ついできないと思ってしまうんですけど、Yet、“まだ”できないだけ。100%をと思うのではなく、1%やる。できないと1%は大きな違いです。プレイフル・スピリットで、スーパーHOWでモノを考えて、乗り切っていきましょう!

苅宿:今日は本当にありがとうございました。プレイフルな生き方みたいなことの主語は自分自身だと思うんですね。主語として自分自身をどうとらえていくのか、そこに一番見るべきオリジナリティがあるんじゃないのかなと思いながら、みなさんの話を聞いていました。変わることも、壊すことも大事なんだけれど、改めて、自分が大事にするものをどう磨いていくのかということも必要なんだなと感じています。

山崎:今日のようなはっきりといってアジェンダのない、プレイフルというタイトルに惹かれて来られたみなさんとは、また交流ができるといいなと思います。僕は学生に「役に立たないこと、無駄だと思うことを楽しもう」という話をよくしています。そんなこともまさにこの会の出来事と思いまして、僕の話も終わりたいと思います。ありがとうございました。

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