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鬼の学び ―鬼塚忠のアンテナエッセイ―

15. 激動する世界を読み解くカギ」 15. 激動する世界を読み解くカギ

鬼塚 今回のゲストは元外交官で、現在、芸術文化観光専門職大学の教授をしている山中俊之氏です。この2月に、ダイヤモンド社より『世界の民族超入門』を上梓されましたね。売れ行きも好調なようですが、これは前作、同じ版元から出された『世界5大宗教入門』の続編という感じですか?

日本人が苦手な宗教と民族が世界を動かす

山中 お陰様で、この書籍はネット書店のアマゾンで「文化人類学」という大きな分類別でも1位になりました。今回の『世界の民族超入門』と、前回の『世界5大宗教入門』の関係は、日本人が世界で仕事をし、活躍する場合に、重要となるテーマのうち一つが宗教で、もう一つが人種を含めた民族という関係にあります。

私たちの行動は仏教の慣習などが色濃く残り、本当は宗教的な特徴を持つのが日本人の特徴です。しかし、日常的に宗教を感じる機会は、法事などを除き、多くはありません。一方で、世界の中で、多数を占めるキリスト教やイスラム教などの一神教についての理解が不足しています。

山中俊之:著述家。芸術文化観光専門職大学教授。神戸情報大学院大学教授。株式会社グローバルダイナミクス取締役。

日本人の中には、何か怪しい団体のことを、「宗教のような団体」と表現する人がいますが、これは日本的感覚です。世界では、宗教は人間の死生観を司る、すなわち死後に天国に行くのか、地獄に行くのかを司る、もっとも厳かなものです。

中には、「宗教的でない」「無宗教である」という人もいますが、宗教自体を怪しいものと捉えることはありません。これが世界の常識です。

一方、日本の中の民族は、アイヌ人や在日コリアンや外国人ビジネスパーソンなど、多くの民族の人が共存している社会であることは間違いないのですが、圧倒的に日本人による日本語の社会であるために、民族について見えにくくなっています。

また、日本には、米国ほどの人種差別が社会問題化した経験がありません。そのため、米国のBlack Lives Matter(黒人の命も重要だ)運動の高まりなどのニュースに接しても今一つピンときません。

複数の政治家が、ユダヤ人問題などで問題発言をしているのも、ユダヤ民族が背負ってきた民族の苦難の歴史を理解できていないことに起因します。

しかし、世界では、宗教も民族も一定の常識として知っておく必要があります。そのためにこの2冊を執筆させていただきました。

ウクライナとロシアはなぜ対立?

鬼塚 なるほど。この書籍は元外交官だからこんなに詳細に書けたわけですか?

山中 私は、1990年に外務省に入省して、中東の部署に配属されました。丁度イラクのクウェイト侵攻があった年で、連日中東の情報収集のために深夜までロイターなどの外電をチェックしたり、世界各国の大使館からの情報を分析したりしていました。連日激務で睡眠不足でふらふらになるほどでした。

その後、エジプトに赴任して、エジプト人家庭に2年間下宿してアラブ文化・イスラム文化を実地で体験しました。その後は英国ケンブリッジ大学で開発学を学びました。全世界から集まった留学生と文学から宇宙工学、獣医学など異分野について議論しました。自分の無知、教養のなさを痛感しました。

その後、サウジアラビアで大使館勤務を経て東京に戻ったあとに外務省を退職。民間コンサルタント、独立起業といったビジネスでの経歴を経て現在に至ります。

鬼塚 世界の民族を知るというのは、とても面白いとは思うのですが、日本人がこれを読むというのは、教養と割り切って読むのが良いですか? それとも何かいま、自分たちの住む世界と関連づけて読むのが良いですか?

山中 是非とも自分たちの住む世界と関連付けて読んでいただきたい。例えば、2022年2月現在大きな軍事的緊張になっているウクライナ問題です。

ウクライナというと、「旧ソ連の国でソ連崩壊後独立した」という知識は誰でも持っていると思います。しかし、歴史をさらにさかのぼれば、ウクライナの首都キエフは、現在のロシア正教のおおもとでもあった場所であり、9世紀末から13世紀にかけてロシア帝国の前に存在したキエフ公国は、ロシアと民族的に近いいわば兄貴分です。

「世界の民族超入門」では、モスクワが東京なら、キエフは京都、奈良のようなものと比喩的に述べていますが、それくらい両民族の関係は近接しているのです。

それだけ近いがゆえに、複雑な歴史を抱えて、近親憎悪的な面もあります。同時に、言葉や文化、宗教が近いために理解しやすい面もあるのです。

歴史や文化、宗教のバッググラウンドがなく、単に新聞やテレビ報道での現状の解説を、表面的に読むだけでは民族は理解できず、民族が理解できないと世界情勢も理解できません。

知識とそれに基づく見識が重要

鬼塚 山中さんのように、知的探求を続けるというのは素晴らしいことです。山中さんはどう、その見識を広めていますか?

山中 別に見識が広いわけではありません(苦笑)。

しかし、ケンブリッジ大学での留学経験から、幅広い知識やその知識に基づく見識が重要であるとは、心の底から思っています。

22歳で大学卒業後、博士(国際公共政策)、修士(仏教、経営、開発学)3つ、学士(芸術)1つの学位を取得していますが、いずれもケンブリッジ大学時代に認識した自らの無知への反省です。

現在はコロナで行けませんが、これまで96か国を訪問し、農村・スラムから先端企業まで徹底取材をしています。仕事の相手先や観光地に限らず、時間があればタクシーに乗って、貧民街や農村も多数訪問して取材するようにしています。

年間読書700冊、映画・海外ドラマ200本、博物館・美術館100回、演劇30回などを目標にし、知識・見識を広げるように努めています。

また、毎朝まず読むのは『New York Times』です。同紙は世界で最も影響力のあるメディアの一つです。日本のメディアと内容が全くといっていいほど違います。

現在は、コウノトリで有名な兵庫県豊岡市を拠点に「新しい地球文明のあり方」を模索しています。豊岡市は、人口減少が続く過疎地ですが、山陰ジオパークなど自然が豊かで、一旦は絶滅した野生のコウノトリが多数生息するようになるなど環境も抜群です。

産業革命以来の歴史は都市を中心に発展してきましたが、その結果人間が自然を軽視して傲慢になった面があるのではないでしょうか。気候変動問題から、環境ホルモン、コロナ感染症拡大など多くの問題は人間の傲慢さに遠因があるように思えます。

鬼塚 生涯学習情報誌の読者へ何かメッセージを!

山中 世界は激動しています。知的探求心を忘れないことで激動する世界を読み解いて、自らの仕事や生活を是非とも有意義なものにしていきましょう!

『「世界の民族」超入門』山中俊之 著(ダイヤモンド社)

『世界5大宗教入門』山中俊之 著(ダイヤモンド社)

山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家。芸術文化観光専門職大学教授。神戸情報大学院大学教授。株式会社グローバルダイナミクス取締役。1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。対中東外交、地球環境問題、首相通訳(アラビア語)、国連総会などを経験し、2000年に外務省を退職。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。2010年、グローバルダイナミクスを設立。激変する国際情勢を読み解きながらリーダーシップを発揮できる経営者・リーダーの育成に従事。2011年、大阪市特別顧問として橋下徹市長の改革を支援。2022年現在、世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街、農村、博物館・美術館を徹底視察。テレビ朝日系「ビートたけしのTVタックル」他出演。

鬼塚忠(おにつか ただし)
1965年鹿児島市生まれ。鹿児島大学卒業後、世界40か国を放浪。1997年から海外書籍の版権エージェント会社に勤務。2001年、日本人作家のエージェント業を行う「アップルシード・エージェンシー」を設立。現在、ベストセラー作家を担当しながら、自身も執筆活動を行っている。
著書:『Little DJ』(2007年映画化)、『僕たちのプレイボール』(2012年映画化)、『カルテット!』(2012年映画化)、『花戦さ』(2017年映画化。日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)など多数。
http://www.appleseed.co.jp/about/

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