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理事長対談
輝き人のチャレンジと学び

第3回 後藤尚右さん 第3回 後藤尚右さん

U. GOTO FLORIST(ゴトウ花店) 代表取締役社長

当財団理事長・横川浩が各界で活躍される輝き人にお話を伺うシリーズ。自分の目指した道で能力を伸ばすためのヒント、そして人生の転機における新たなチャレンジや学びついてお伝えします。第3回は、創業130年、東京・六本木のランドマークの一つであり続け、洋花業界一の品質を掲げる「ゴトウ花店」の第4代社長、後藤尚右さんにお話を伺いました。

ごとう なおすけ●1962年生まれ。慶應義塾大学卒業後、海外(アメリカ、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア)の花店で3年間修業。U. GOTO FLORISTは曽祖父・後藤午之助が1892年(明治25年)に創業し、今年130周年を迎えた。2001年に父・一郎氏を継いで4代目社長に就任。六本木本店のほか、新宿高島屋店、ヒルトン東京店、キャピトル東急店、帝国ホテル店を統括する。最高品質の生花と洗練された技術・サービスの提供がモットー。

思いを馳せながら花を贈る人の
気持ちが花に表れる

横川 ゴトウ花店は1892(明治25)年創業、今年は130周年ということで、まずはおめでとうございます。後藤さんとは1987年にニューヨークでお会いしたのが最初でした。当時私が在籍しておりました総領事館の近くのウォルドーフ・アストリアホテルで、フローリストとして修業しておられましたね。

後藤 ありがとうございます。よく覚えていてくださいました。その通りで、ウォルドーフ・アストリア・ニューヨークは、アメリカで3か所くらい修業したうちの一つです。横川さんはある女性にご紹介いただきました。

横川 大学を出てすぐに修行に出て、作業着姿でフラワーショップで汗をかいていらっしゃる。老舗を継がれる方はこういう所から入っていかれるのかと、すごく印象的でした。ゴトウ花店を継ぐというのは、後藤さんにとってどういうものでしたか。

小遣い稼ぎから経営の面白さに気づき

後藤 まず、継ぐと決めたのは私自身でして、3代目から頼まれてしょうがなく継いだというわけではないんです。また、「花が好きだから継いだんでしょ」とよく言われますが、それも一番の理由ではありません。

子供の頃は親がお金に関して厳しく、お小遣いが少なかったのです。高校時代に仲間と遊びに行くお金がほしくて、店が忙しいお中元やお歳暮の時期に、時給500何十円でアルバイトをさせてもらっていました。私自身は小遣いのためでしたが、周りの人間は私が継ぐのだと思っていたようです。

大学2年の頃でしたが、アルバイトを続ける中で、会社というのは生き物だなと感じたことがありました。小さな問題を放置すると傷口がすぐ広がってしまうし、逆にファインプレーできちんと対応すると、スタッフの気持ちが良い方向に向いて、血流が良くなるんですね。まるで人間の体みたいだなと。

父親の作戦だったのかもしれませんが、下っ端として働きながら、大変さと同時に面白さも理解し始めたのでしょうね。うちの社員は70~80名です。会社は人間の集まりですから、人それぞれ違う動きをしてしまいます。そこを、自分が指揮棒を振って経営するということは、責任重大だけど面白そうだと思ったのです。花の良さもわかってきていましたが、花屋を継ぐというよりも、家業である会社を継ぐという意味で考えました。

横川 この対談では「輝き人」=成功者であっても、折々の試練を乗り越え、新たなチャレンジがあったはずで、そこから我々も学びたいと思っております。社長になられて、どんな取り組みをされましたか。

花と別の何かを組み合わせて相乗効果

後藤 130年続いていると守らなければいけないことがたくさんあって、その柱はしっかり守りつつ、時代に遅れないよう改革しなければなりません。私の代では、花と別のものを組み合わせて相乗効果を生みだすことをいくつか提案させていただきました。

たとえば、花いっぱいの結婚式をしたい方に、お店を式場としてレンタルしました。ホテルで花いっぱいに飾ると1千万~2千万かかりますが、花屋で結婚式をやれば手の届く予算で一生に一度の体験ができます。

一流のクリスタル、陶磁器、石鹸などとコラボした商品を作ったりもしました。それで利益が上がったかどうかはともかく、130年やっている花屋の責任として、花の良さや可能性を、社員やお客様、できればお客様でない方にまでも伝えさせていただくのが役割ではないでしょうか。その点、少しはできたのかなと感じています。

横川 このお店も、エントランスがカフェと一緒だったり、花屋の中にクリニックやリラクゼーションのお店があったり、一つの街のようで面白いですね。

後藤 この店舗の設計自体を、花と別の何かとの相乗効果を狙ってやりました。クラシックの音楽家によるサロンコンサートも何度か開催しました。単に花を販売するという商行為の線を少し踏み越えることによって、花の良さもより深く広く皆様に伝わると思います。

ウィーン・フィルハーモニーが毎年ニューイヤーコンサートをやっていますよね。その際、すごくたくさんの花を飾っているんです。音楽にも花にも人の心に届くものがあって、それが合わさって違う世界が生まれます。日本ではなかなか難しいかもしれませんが、100年に1度くらいはやってもらいたいなと思います。

実はこの秋に5代目にバトンタッチする予定です。20数年間、自分の責任でドジを踏んだり、それを助けられたりしたこともたくさんありました。リーマンショックや東日本大震災なども起きました。130年生きている長寿の生き物のような老舗です。社員やお客様に対して責任を持つというのはもちろんですが、そのど真ん中で生きてきて自分自身も成長できたと感じています。

いつの時代もどこの国でも花の役割は同じ

横川 対談が決まってから私なりに花の勉強をしたのですが、面白いので生涯学習として続けるつもりです。縄文時代すでに木や花を大事にする文化があり、平安時代の宮廷文化での発展を経て、室町時代の華道成立。安土桃山時代には千利休の茶道でも重要な役割を担い、その後も大河のような歴史の中で、花は人間と関わり続け、とても大切な役割を担ってきてくれたのですね。喜びの時には感動を大きく幸せな気持ちしてくれますし、私は昨年妻を亡くしたのですが、そういう悲しみの時にも、慰めと同時に前を向く気持ちにさせてくれます。
そういった花とその役割を提供する花店とはどのようなものなのでしょうか。

後藤 おっしゃるとおり、花と人との橋渡しをするのが花屋の仕事です。花屋という業態が日本で誕生したのが、ちょうど私どもが創業した明治25年ころです。良い花を仕入れて、健康な状態に管理して、いつでもお持ち帰りいただけるようにしておくのが花屋の基本ですが、私どもの場合、花束、パーティーのデコレーション、ご葬儀の祭壇など、多数の花を集めてデザインするという仕事もあります。ただ、商売としての花屋であろうと、文化であろうと習慣であろうと流儀であろうと、花の役割は同じであったに違いないと思います。

花は人の心に働きかける力を持っていますが、逆に人の心が花に働きかけるという相互関係があるのです。花の組み合わせは無限で、似たアレンジはできますが全部違います。贈る人の「ありがとう」や「残念です」といった思いを花で表現すると、言葉のみで伝える以上の効果があります。なぜかというと、相手の人柄や状況に思いを馳せながら花を贈る方の、気持ちが花に乗り移るからです。言葉と異なる独自の方法で、相手を理解していることを表現できてしまうんです。

贈る人、作る人、受け取る人の気持ちが組み合わさって世界に唯一のデザインになります。それによって贈る方にも受け取る方にも喜んでいただくというのが、花屋の役割です。

横川 最近では、ウクライナで凄惨なできごとが起こった場所に花が置かれている画を見ることがありますが、国際的にみて必ずしも幸せではない国においても、花の力がプラスに働くと感じます。後藤さんは世界各地の花屋さんでも勉強されたわけですが、海外でもお花の役割は変わらないのでしょうか。

後藤 修業としてはニューヨークのほか、シカゴ、サンフランシスコ、パリで働き、イタリアやドイツ、オランダも行きましたが、そうした花の役割はどの国でも同じです。

パリでは、お友達になったご夫婦の素敵なアパルトマンに呼んでいただき、私も花を持って伺いましたが、ヨーロッパでは日常的に花を飾ったり贈りあったりする文化が、日本と比べて圧倒的に根づいています。

ただし、ラッピングについては日本が一番進んでいますね。アメリカの花店はラッピングにはまったく無頓着でしたが、イベント会場などのダイナミックな装飾やアレンジには見るべきものがありました。

横川 華道の世界だと流派がありますが、洋花の世界にもあるのですか。

後藤 無くはないです。イギリス流はこう、フランス流だとこうみたいなのはありますが、華道の流派に比べるとざっくりしています。逆に言うと、こうしなければいけないという縛りがないので、お客さんに喜んでいただけるかどうかはフローリストの腕次第です。

自分で打開させることが最大の教育

横川 ゴトウ花店でお花を買うと、どなたが担当になってもすごく良いアレンジメントをしていただけるのですが、スタッフの教育はどのようにされているんでしょうか。

後藤 花のアレンジは個人の感性による部分が大きいのです。技術は訓練できますが、感性は教えることができません。担当者の感性でアレンジし、ゴトウ花店が良しとしても、気に入ってもらえないお客様もいらっしゃいます。お客様の感性に合わせて調整し直すのですが、やはり落ち込みます。そこでめげずに勉強だと頑張れるかどうか、打たれ強さを教えるのも教育だと思っています。

社員教育をしていると、終わりはないというのが認識です。一生もがきながら、失敗しながら勉強していくのだと思います。お客様に怒られることもあるし、自分で納得できない時もあるし、いろんなことがあります。

花の難しいところは、均一な工業製品ではないことです。結婚式用に同じ花を発注しても、いつもより小さい、発色が良くないといったことがあります。結婚式は翌日です。そこから約束通り、どうお客様に喜んでいただけるものに仕上げるか。こういったときにもかなりの経験と柔軟性が必要になります。もう教えるという域ではないので、社長が言えることは「打ちのめされるな、冷静になれ」しかないです。あとは、自分で打開させることが最大の教育になります。そのための気持ち的なサポートは全力で行います。「そういうことはあるよ。みんな経験しているから」というアドバイスをしています。

日本で一番良い花がある店に

横川 ゴトウ花店の花は持ちがいいと感じます。お花の仕入れにおける厳選力もゴトウ花店ならではですね。

後藤 花屋の良し悪しは、先ほどお話ししたデザインや感性のほかに、花そのものの品質というものがあります。

どこよりも安いですよというのも一つの品質で、そこで売る花屋さんもあります。私どもは、少し値段は高くても、他より長持ちして発色も良い立派な花を選りすぐって、「日本で一番良い花はゴトウ花店にありますよ」と言えるようにしなさいと、申し送りされて130年やっています。

23区内は自社で配達しているので機動力もあります。「何時に来てください」というご希望にも対応できるようにしており、そういったサービス面でもトップクラスを目指さなければならないと思っています。

横川 多少お高いと申されましたが、買う方からすると、納得感のある買い物をさせていただく場としてゴトウ花店があると感じています。トップを維持するのは経営として大変なこともあると思いますが、ゴトウ花店のファンとしては、他との競争で変な妥協をしない花を供給していただきたいと思います。

後藤 それは守っていきたいと思っていますし、それができなくなったら130年続いているとか関係なくやめてもいいと思っています。最近は店舗を持たない花屋さんが増えています。電話やオンラインでどんどん注文を受け、宅配便で配達するという形で、店舗も社員もいらないのでリスクが少なくて済む。オンライン注文全盛の時代に、わざわざ店舗に足を運んでくれるお客様がいるということはとてもありがたいことです。

なぜ来てくださるのか。花が完成するまでの間に、コーヒーを飲みながら店内のピアノ生演奏を楽しみ、デザイナーが作っているのをライブ感覚でウォッチできる場所として店舗があるんです。ですから照明にも気を配っていますし、床の石もあえてでこぼこさせて雰囲気を演出しています。そういうことの一つひとつをお客様の感性で感じてもらいたいのです。

横川 この記事の読者には、ぜひ、ゴトウ花店に来てみてほしいです。買わなくても、いろいろな花を見たり店の中で何かを感じたりすることができます。

後藤 散歩途中のパブリックスペースのつもりでご来店いただいてけっこうです。そのほうが花も喜ぶし、むしろ誰も来ないと寂しいです。写真撮影も、他のお客様が写らなければOKになりました。ぜひSNSでも拡散してください。

季節にあわせてデザインが変わる、ビルの吹き抜け部分を使った巨大なウィンドウディズプレイ。六本木のランドマークの一つとなっている。

毎日がクリスマスだと思えば
嫌なことも忘れて
周りを幸せにできるはず

横川 経営は5代目に譲っても、まだまだお若い尚右さんは、生産、流通を含めた花業界全体にエンカレッジするような、あるいは街や社会全体を明るくするようなお立場で、ぜひご活躍いただきたいと思います。
最後に、生涯学習として何かにチャレンジ中の方へのメッセージをお願いできますか。

後藤 座右の銘ではないですが、私が大事にしているのは「毎日がクリスマス」という気持ちです。宗教的な話ではなくて、クリスマスの世界観が大好きなのです。花の買い付けに行っても、その時期はクリスマスだらけにします。嫌なことも忘れてウキウキするし、街全体がそういう雰囲気になります。相性が悪い人から何か言われても、今日はクリスマスと思えば何てことないです。

その精神でやっているとお店も活気が出て自然と笑顔になります。幸せとは気の持ちようでしょう。企業の良さは規模や売上げ・利益だけではないし、人の幸せはお金持ちかどうかで測れるものではありません。気の持ち方で変わるのかなと思います。

歳をとれば体は衰えていきますが、心は逆に成熟していきます。自分の精神を活用、コントロールすることで、人生が楽しく豊かなものになるのではないでしょうか。

生涯学習においても、「難しいかな」「つまらないかな」と思っても、学べる機会をクリスマスプレゼントだと思ってやってみると、何か発見があるのではと思います。  人と比べてどうかなんて気にせず、本人が幸せなら勝ちだと思ってやってみてください。そうすることで周りの人も幸せにできる。私はそう信じています。

横川 本日はありがとうございました。

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