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インタビュー1 考古学者 ニコラス・リーヴス氏

研究テーマ

古代エジプト アマルナ時代の研究 ―「王妃ネフェルティティの墓の仮説に基づく調査・研究」

ツタンカーメンの墓の奥に王妃ネフェルティティが眠る?
財団が助成した調査にいま世界中が注目!!

21世紀最大の発見? ニュースが世界を駆け巡る

 財団が昨年10月に助成した、イギリス人考古学者ニコラス・リーヴス氏の調査に世界が注目している。「古代エジプト三大美人」の一人でツタンカーメンの義母としても有名な、王妃ネフェルティティの墓が、リーヴス氏の仮説通り発見されそうな予感からだ。
 ネフェルティティの夫のアクエンアテン(アメンホテプ4世)は、BC1368年頃、太陽神アテンの一神崇拝を掲げてアマルナ遷都を行ったファラオだ。この遷都には、神官たち多くの反対勢力が存在した。アクエンアテンと次のファラオであるスメンクカーレーの死後は、アクエンアテンの幼い息子・ツタンカーメンがファラオに即位するが、反対勢力に同調し元の首都や多神教に戻ることになる。
 実はこのアマルナ時代の明確な記録はほとんど残っていない。アクエンアテン、スメンクカーレー、ツタンカーメン、アイの4代は、次のファラオとなった軍人出身のホルエムヘブにより王統図から抹殺され、歴史が書き換えられてしまったからだ。
 ネフェルティティは特に謎に満ちていて諸説あるが、リーヴス氏は、アクエンアテンからファラオを継いだスメンクカーレーこそが、ネフェルティティのもうひとつの名だという説をとる。ファラオの共同統治者であり、名を変え次のファラオについたほどの権力者ならば、立派な墓があるに違いない、にもかかわらず、どこにも見つかっていない。

ツタンカーメンの墓の壁面スキャン画像に注目

 ツタンカーメンの墓は、黄金のマスクのイメージから立派な墓と思われがちだが、実は他のファラオの墓と比べるとあまりにも小さいのだ。リーヴス氏の仮説はこうだ。
 「19歳の若さで急死したツタンカーメンには墓の準備がなかった。そのため急遽、すでにあった義母で先王のネフェルティティの墓の中に部屋を増築し、ツタンカーメンを埋葬したのではないか。その推理が正しければ、墓のさらに奥には、本来の墓の主であるネフェルティティが眠っているはずだ」
 この仮説のきっかけは、エジプト政府がツタンカーメンの墓のレプリカを造るために撮影した、壁面の高精細スキャン画像を、リーヴス氏がさらに分析したことからだった。
 壁の凸凹を強調して精査すると、まず、西の壁に小さな入口の形跡が見えてきた( A )。この入口は、周囲の石とは違う質の土などで埋められている。入口のサイズも、すでに発見されている東側の収納室Bや南西に離れた収納室 C の入口と同サイズなのだ。この壁の向こうには、 BC と同様の埋葬品を納める別室があるに違いないと考える。

北の壁にも奥の部屋がある予感

 北の壁のスキャン画像にはさらに多くのものが確認できた。先の A よりも大きい通路のような空間を埋めた跡 D 。ここも周囲の岩とは質感が違い、もともと埋められていたツタンカーメンの石棺がある部屋の入口 E と近い構造と推測する。この先にも比較的大きな空間があるのではないか。
 それを補完するのが天井近くのヒビ割れ F と、天井から床に向かう垂直の痕跡 G だ。F のようなヒビ割れは、現代建築でも、部屋と部屋の間の壁が重力によって引っ張られたり、縮んだりした際に、部屋の端にできやすい。G は前室の H の壁の延長上に位置し、元々壁だったところを後から西方向に掘り進めたために残った跡と考えられる。つまりこの部屋は元々は通路だった可能性が高く、その先に然るべき埋葬空間があるのではないか。
 ツタンカーメンの埋葬室が後から作られたと推測する証拠はまだある。4面の壁画のうち北面の G の位置から右半分だけが下地の色が白で、他の面は黄色地になっているのも、理由があってのことと思われる。

もう一人埋葬されてるとしたら誰?

 元々ネフェルティティの墓だと推測する根拠もいくつかある。地上から階段を降りて右に曲がって埋葬室に向かうのは王妃の墓の特徴であること。ファラオの墓は左に曲がるのが標準だ。
 北面の壁画の右端はツタンカーメン( X )に「開口の儀式」を執り行う次のファラオのアイ( Y )だとされている。しかしその横顔を彫像と比較すると、別の見方ができる。X の口元はネフェルティティの像の口元と特徴が似ている。Y の顔は高齢だったアイにしては若く描かれ過ぎ、顎の形はツタンカーメンの像の顎によく似ている。もしかしたらこの絵は、亡くなったネフェルティティに「開口の儀式」を執り行うツタンカーメンを描いているのではないか。
 ツタンカーメンの黄金のマスクには、ネフェルティティの名前が記されていることが別の調査で判明している。ネフェルティティがスメンクカーレーと同一人物なら、2つのマスクが作られた可能性がある。王妃としてとファラオとしてだ。ツタンカーメンを埋葬する際に、一方のマスクを転用したのではないか。

小さな取っ掛かりを大切に

 「何もないかもしれないし、あってもネフェルティティの墓ではないかもしれません。しかし、もしかしたら世紀の大発見に至る可能性もあるのです。それは、スキャン画像という小さな取っ掛かりを穴があくほどじっくり見たからです。人生も同じです。自分にこんなチャンスが訪れるなんて想像していませんでした。小さな興味を大切にしなくてはいけません。ですから、財団が50歳以上の博士号取得を支援する事業には共感します。松田妙子理事長が71歳で東京大学の博士号を取られたのもグレートです! 何歳で始めても遅くはありません。私も余裕ができたらですが、次はぜひ日本の考古学を研究したいと思っています」
 11月にエジプトに渡ったリーヴス氏らは、日本製レーダー機器などで壁の向こう側を調査。11月末に世界に発信されたニュースでは、壁の向うに部屋か石棺かもしれない空間があること、エジプト考古相が「確率は60%から90%に上がった」と発言したことが伝えられている。今後もぜひご注目を。

昨年10月22日に財団を訪れたリーヴス氏と財団事業部長の佐藤。
本誌の「日本の技」シリーズのインタビュアーでもある上野由美子氏が、リーヴス氏の片腕として調査に同行している。リーヴス氏は1956年生まれ。古代エジプトに魅了された多くの少年の一人で、友人たちが卒業していく中、自分だけは興味を持ち続けた。13歳の頃にはボランティアで博物館を手伝い、学芸員たちを驚かせていたという。

今回の調査の様子は、同行しているナショナルジオグラフィックの日本語版Webサイトでご覧になれます。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/120200344/?P=1