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 先日、新聞の紙上で、「何のために勉強するのでしょうか」という少年の問いに対し、著名な教育者が、「勉強は将来の職業の選択肢を増やすものです。頑張れ!」と答えていた。その時は何の疑問もなく正論だと思ったが、こうして生涯学習についての執筆依頼がきて、あらためて「学ぶとは何か」を考えてみると、私なりの学びの理想像が見えてきた。
 学びとは、ただ純粋に知的欲求を満たすための行為ではないだろうか。将来の自分に寄与しなくても、仕事の選択肢が増えなくても、人生の無駄になっても、それはそれでいい。人生が豊かになれば。
 学ぶということはかなり楽しいことで、頑張る必要もない。頑張れ! ではなく、楽しめ! がふさわしい言葉のように思える。

 元来、私は理系で、歴史が嫌いだった。ところが、今では歴史好きとなり、それが長じて『花戦さ』(角川書店)という歴史小説を書いた。もしかすると嫌いだった原因は学校の授業にあったかもしれない。先生が話す歴史の内容は面白いが、話し方がつまらないのでかなり退屈していた。
 そのことがずっと頭の片隅に引っかかっていたのだが、2年前、その解決策が浮かんだ。坂本龍馬や、徳川家康、マリーアントワネット、クレオパトラ、織田信長、千利休といった過去の偉人たちをタイムマシンで現代に呼び寄せ、彼らに歴史(いや、彼らにしてみれば当時の状況なのだが)を一人称で語らせるという企画だ。これなら、脚本を書く自分も、公演を見に来るお客さんも楽しみながら学ぶことができる。

 

①私と徳川家康との対談。徳川家康に学ぶべきは、失敗から学ぶ力。 ②織田信長の戦国時代講義 ③幕末、慶応3年11月15日の日中から現代にタイムスリップした坂本龍馬。そう、その日はあの日なのです。

 

 私は思いついたら実行しないと気がすまない。さっそく「劇団もしも」と命名して、明治大学の大人のための課外講座シリーズで公演を催したら、好評を得た。イケメン武将集団として活躍する「名古屋おもてなし武将隊」とコラボするなどの広がりを見せ、今では日本全国のイベントや学校に呼ばれるほどである。今年も、東京と名古屋で開催するつもりだ。
 偉人たちを演じるのは、もともとは梅沢富美男の梅沢劇団元劇団員であり実力派俳優の速水映人。女役も含めて老若男女を演じ分けることができるので、坂本龍馬として刀やピストルを振り回したかと思えば、マリーアントワネットに扮してフランス革命を背景に平和や博愛、平等について語る。クレオパトラになった時は、国家を統治することとカエセルたちとの愛を両立させる方法を艶やかに語って観客を魅了した。

   

④マリーアントワネット。「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったとか、言わなかったとか。 ⑤クレオパトラは、愛と政治を語った。 ⑥歌舞伎の始祖と言われる出雲阿国(いずものおくに)

 ときには、呼び出す偉人をふたりにして、1 つのテーマについて討論させたりもする。
 たとえば、前回の公演では、江戸幕府を開いた徳川家康と、江戸幕府を終わらせようと奔走した坂本龍馬を過去から呼び寄せ、江戸時代とは何だったのかを議論させた。はじめ家康は、命をかけて作った江戸幕府を終わらせようとする龍馬に怒り狂う。しかし討論が進むにつれて、この日本を守り、平和な世を作るために倒幕は必要だと説く龍馬に共感を覚えるようになる。そして、家康や龍馬に、太平洋戦争では、アメリカを相手にたった二発の爆弾で日本が滅びそうになったことを聞かせ、ふたりそれぞれの立ち位置から戦と平和について語ってもらう。最後には、現代の日本の状況についても聞かせ、これがふたりの望む日本だったかを観客と共に検証する。

 また別の公演では、織田信長と千利休を現代に呼び寄せて、裁判を開いた。織田信長が行った名物狩りは犯罪ではないのかと、利休が恐れながらも裁判官に訴える。「名物狩りは強制的で犯罪にほかならない」とする利休に、信長は貨幣経済の有効性を説き、茶器や絵画などの名物を買い上げて貨幣を流通させ、物々交換から脱却させたことで経済的に裕福な世になったと主張する。裕福な数人のわずかな不幸より、全体の幸福を優先するべきだという。観客は陪審員となり、訴えの是非を決めるという内容だった。
 そもそも歴史は試験のために覚えるものではなく、過去の事例を判断材料に、私たちの生きる世の中、またはこの先の将来をどう変えていくか考えるために勉強するものだ。

 

⑦織田信長と千利休が時空を超えて裁判で争う!? ⑧左から、織田信長、著者、千利休 ⑨徳川幕府を開いた徳川家康、終わらそうと奔走した坂本龍馬 ⑩坂本龍馬が千葉県の中学校でいかに生きるかの講義

 こうして改めて歴史の断片を劇にして、一人の人間として書いてみると、「ああではないか」「こうではないか」と、いままで考えもしなかった関連情報や時代背景が見えてくる。そうなると、教科書には書かれていないことを調べる必要が出てくる。偉人になりきってどう行動したかを想像するのは面白いし、その結果、平面的であった教科書がリアルに感じられ、立体的な視点で社会を見られるようになった。こんな風に、大人ならではの楽しい学びの体験ができた。

 生涯学習とは、無理やりに勉強するものではない。決してストイックになる必要はなく、あなたはあなたの方法で、あなたの興味の赴くままに、学びを楽しんでみてはどうだろうか。

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鬼塚忠(おにつか ただし)
1965年鹿児島市生まれ。鹿児島大学卒業。卒業後、世界40か国を放浪。1997年から海外書籍の版権エージェント会社に勤務。2001年、日本人作家のエージェント業を行う「アップルシード・エージェンシー」を設立。現在、経営者、作家、脚本家として活躍。「劇団もしも」も主宰している。
著書:『海峡を渡るバイオリン』(2004年フジテレビ45周年記念ドラマ化。文化庁芸術祭優秀賞受賞)、『Little DJ』(2007年映画化)、『僕たちのプレイボール』(2012年映画化)、『カルテット!』(2012年映画化)、『花戦さ』(2017年映画化。日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)など多数。
http://www.appleseed.co.jp/aboutus/aboutceo.html

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